Bounty Dog 【清稜風月】193-194

193

 巳の刻(9:00)。ヒュウラはイヌナキ城の本丸の最上階にある客間に敷かれた和式の布団で寝かされていた。槭樹の実子である柳・イヌナキが生前使っていた籠目(かごめ)柄の燻んだ緑色をした掛け布団が、亜人の首から下に乗せられている。
 人間のように布団に入って寝ている狼の亜人の頭の上に、真水と毬藻が1匹入った硝子の器が置かれていた。あの後、”其れ”が喪失したと同時にヒュウラが倒れた。槭樹がヒュウラを抱えて此の部屋まで連れて行ったので、甘夏が後を追い掛けて、睦月も毬藻入り器を拾ってから後を追い掛けた。現在は櫻國に居ないシルフィと櫻國に居るが山の家で日雨の護衛をしているコノハ以外の人間達が、寝ているヒュウラを囲んで座っている。
 帝族同士の戦も”其れ”と共に今は喪失していた。混乱だけが、”其れ”に出会していないコノハ以外の人間達の脳内に残されていた。

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