Bounty Dog 【清稜風月】187-188
187
人間の”郷”は、人間だけが関わってどのような問題が生じても人間だけで解決させるモノである。中東の紛争地帯では人間では無い”彼ら”も関わらせてしまったが、此の東の島国では亜人を人間の郷に今後は一切関わらせないと彼女達は決めていた。
己達が保護を専任している生き物であるからこそ、彼ら亜人種を他の生き物達と同様に脅威の存在である『人間』が行うロクでも無いイザコザに巻き込んではいけない。国際保護組織の上層部から相手の口が酸っぱくなる程に警告されている事であり、常識としても至極当然の事であった。
例え”頭に付いたネジの位置が可笑しい狂人”と上層部から部下まで組織中の人間達から称されて腫れ物扱いをされているシルフィでさえ、己が指揮している亜人は別の亜人保護の際に保護対象(ターゲット)の警戒を解かせて捕獲しやすくする潤滑油のような役割を与えて利用はするが、ヒュウラやリングに『戦争を終わらせろ』とは指示しなかったし、今関わっている任務でもヒュウラに人間への発信機付けの手伝いはさせたが『国を救え』とは指示していない。
彼女達が活動を始めた時刻は、ヒュウラが起きた時間よりも1時間以上早かった。睦月と甘夏は徹夜している。シルフィも夕飯を抜いた。己以外に支部で活動している保護官達は、地下室で”あいつ”を監視している数名の人間以外は全員任務に追い払っていて誰も居なかった。
シルフィがヘッドセット越しに、特別保護官・睦月に向かって任務を決行する合図をした。任務の内容を告げる。
『槭樹・イヌナキが手を下して来る前に甘夏・カンバヤシを連れて城外まで脱出。脱出後は速やかにサクラダに連絡。カンバヤシの監視をサクラダに任せてから、貴方だけ城に戻って、イヌナキに見つからないように監視。Kがイヌナキに連絡をしようと尻尾を出してきたら、すかさずKを見付け出して逮捕して頂戴』
睦月は左手首に付いた機械の腕輪を口元に近付けて、星半周先に居る指示者に応答した。
「承知しました。”風”に重々用心します」
睦月は本来の護衛対象である日雨の身に関して、己が姫の監視要請をするまでコノハが護衛しているとシルフィに知らされていたので安心していた。彼女は”変な人”だが悪人では無く、密猟者でも勿論違う。加えてヒュウラの容体が日雨のお陰で回復していると、昨日の空が宵闇に包まれたばかりの頃に、コノハが通信機と発信機越しに律儀に教えてくれていた。
人間達の”郷”は、人間だけが関わって全ての問題を解決させる。一方で亜人達の”郷”は同じ亜人が関わる方が最も良いのだと、シルフィ・コルクラートが任務内容を伝えて来る前に言ってきた。
彼女達は未だ、此の世界に2つある大きな”郷”の何方にも縛られずに自由に行き来出来る存在が2つ居る事に、勘付いていない。
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