Bounty Dog 【アグダード戦争】89

89

 東エリアの一角に居るコルドウは、ヒュウラとカスタバラクが近くを通った事に気付かなかった。真っ暗い部屋の奥で1人の人間が出している声に耳を傾けている。
 その人間は今は『空』に居る死んでいる存在で、男で、死んだ時の年齢はカスタバラクよりも10以上歳上だった。コルドウとその人間との関係は『友』であり、ヒュウラと出会う遥か前に出会った、コルドウの恩人だった。
 コルドウが”彼”に出会ったのは5年前で、5年前のアグダード地帯は大飢饉に襲われていた。飢えたのは人間だけでは無く、アグダード地帯で暮らしている他の生き物達も、勿論モグラの亜人も飢えに非常に苦しんでいた。地中も食べ物が無くて生き物が皆んなお腹を常に空かせていたあの頃は、今よりも人間達が凄く凶暴だった。
 兎に角、兎に角腹を満たして生き残りたくて、あらゆる生き物を見つけたら殺して食べて、食べ物じゃ無いものや毒まで食べて死んでしまったり、人間同士でも食べ物の奪い合いと殺し合いを彼方此方でしていた。人間同士で共喰いをしていると噂を聞いていた。子供が腹に入っていて美味しい肉が増えているから妊婦は見つけたら喜んで殺して丸焼きにして食ってたとか、皮膚はそのままだと化粧品で毒が滲み付いているから、3回湯引きして干してを繰り返してから焼いて食うとか、幼い子供が1番肉が柔らかくて美味しいとか、老人は食べられる所が殆ど無いけど骨ごと鍋に入れてスープにすれば出汁が出るし肉もこそぎ落として食えるとか、亜人も物凄く恐ろしいと思う飢餓状態の人間達の狂った”食”の噂を沢山聞いていた。
 モグラの亜人も同種を喰ってしまって同じ群れの仲間に処分された狂った個体が数匹出たが、コルドウの所属している群れは幸いにも、全員が飢餓状態でも正気を保っていた。
 そんな地獄の時に“彼”は、アグダードの外の世界からやってきた。

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