Bounty Dog 【清稜風月】 3-4
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屋根に瓦(かわら)という湾曲した鉄の板が敷き詰められている、土と木で作られた独特な形状をした建物の屋根を軽やかに跳ね飛んで走り回る1つの影に、繁華街を観光している外国人の旅行者達は、皆が揃って相手を見付けては「オウ!ワンダフル!!ニンジャ!!」と叫んで大いに喜んだ。
実際はそんな存在では無く人間ですら無い狼の亜人・ヒュウラは、己も初めてやってきた未知の国”櫻國(おうこく)”の街を屋根の上を疾走しながら繁々と観察していた。新たな護衛役の保護官が己に付けられている事を知らない絶滅危惧種の亜人の青年は、目に掛けていたサングラスを外して放り捨てると、久々に誰も傍に居ない孤独の状態で、屋根から屋根に気の向くまま飛び移る。
走り回りながら目線を下に向けると、櫻國の街は自然の草花や小川と共に、実に不思議なモノばかりに溢れていた。花や不思議な模様が描かれているビラビラした布を引き摺るように着ている人間達が、扇(おうぎ)という紙と木で出来た薄っぺらい謎の道具を手に持って口元を隠したり、非常にゆっくりと回り踊っている。
ヒュウラは特別にせっかちな性格では無いが、この国の人間は全体的に動きが遅過ぎてイライラすると感じた。己は人間を喰おうと考えた事は無いが、喰おうと思えばどんな生き物でも襲えば簡単に喰えそうなくらい、動きが遅くて弱過ぎる存在だとも勝手に思った。
逆に動きが早過ぎて攻撃力も高過ぎる、身体能力が全人類トップクラスの超有名な人間達もこの国には存在しているが、その存在に終始外国の観光客達に間違えられたまま、片目5億エードの宝石になる非櫻國出身の狼の亜人は、屋根の上でしていた高速探索中に、非常に魅力的なモノを見つけて急停止した。
虹彩が金、瞳孔が赤い独特の目を限界まで見開く。口から涎が垂れて落ちた。念願のモノを突然見付けて、ヒュウラは口角だけ上げる不器用な笑顔も無意識にした。
ヒュウラが見付けたモノは、和菓子屋だった。
真ん丸くて柔らかい餅が数個、細長い竹の棒に刺されている和菓子・団子(だんご)が山のように乗っている皿の横に設置された網の上で、大好物である煎餅が沢山並べられて焼かれていた。
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