Bounty Dog 【清稜風月】5

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 ヒュウラは、木に引っかかった状態で上下逆さまにぶら下がっていた。思わぬ”詰めの甘さ”をしてしまったせいで、特技である崖キック下りすら忘れてしまう。
 幸いにも暴走狼を優しく受け止めてくれた木々は、枝葉にしなやかさがあって衝撃に強い植物だった。小さな擦り傷を全身に負っただけで済んだヒュウラは、上下逆さまになったまま、目の前に立っている謎の女と無言で見つめあっていた。
 人間のような生き物の女も、先程見た狩人らしき人間の男と同じくらいの年齢っぽかった。少し青白さがある黄色い肌をしていて、先端が真っ直ぐ横に切り揃えられて尻近くまで伸びている、非常に長い桜色の髪を、固い紙のような白い布で結んで、襟足の辺りで一纏めにしている。
 小さな卵形の顔に付いた大きな目は、髪よりも濃いピンク系の色である撫子色をしていた。ヒュウラの目の前に居る若い女も、この国にやってきて見てきた櫻國の人間達と同じような、ズルズルしている筒状の布を縫い合わせたような桃色の服を着ている。
 足に白くて短い薄めの足袋(たび)を穿いていて、靴の代わりに草鞋(わらじ)を履いていた。狩人の男のような毛皮や鎧は付けていなかった。黄色い帯(おび)という太い布を振袖(ふりそで)の腰の部分に巻き付けて、腰の後ろで”角だし結び”という形で結んでいる。
 女は此の国の人間達と同じような格好をしているが、此の国の人間達とも他の国の人間達とも大きく異なっているモノを身体に付けていた。
 直毛の髪は前髪と頬の部分だけ短くなっていて、頬の髪は顔の内側に向かって丸まっている。そんな髪型をしている女の両耳の後ろから前に向かって、先端に白い球飾りのようなモノが3つずつ付いている触覚のような赤くて長細いモノが、左右に1本ずつ揉み上げのように垂れていた。
 そして、女は背中に羽が生えていた。鳥のような翼では無く、虫の羽のような透き通った黄緑色で少し長細い羽が4枚、上側の2枚は前に折れて生えていた。
 人間達は、かつて保護組織の隊員達がヒュウラに教えた『ロック鳥』と同じような幻想の生き物を沢山想像して作り出し、事実は全くの嘘である伝承というモノにしたり、創作御伽噺に登場させて楽しんでいる。其れについてはヒュウラは全く知らなかったが、今目の前にいる存在も人間が見たら思わずイメージする空想の生き物を、人間達は遥か昔に想像して作り出していた。
 ヒュウラの目の前に居る虫のような特徴を持っている女は、まるで妖精のようだった。
 但しこの妖精は、西洋の森や花畑に住んでいるという事にされている葉っぱのような服を着た半裸の小人では無い。東の島国の民族衣装である『着物』を着ていて竹や松が生えた山の中に住んでいる、小柄だが背丈は150センチ以上ある大きな妖精だった。

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