Bounty Dog 【アグダード戦争】210-211
210
「イード・ミラード・サイード(お誕生日、おめでとう)!!」
「シュクラン(ありがとう)、テメエら。シュクラあーん!!」
軍曹の誕生日がやってきた。ミトが朱色目に教えた西洋式の誕生日パーティの飾り付けがされたアジトのエントランスで、キラキラ輝く銀紙のポンポンが貼り付けられた座椅子に座っている軍曹は、何時もの格好だが何時もと違って、椅子に行儀良く座っていた。
しようと思えば最高に御行儀の良い座り方も出来るが、普通並の行儀良さで座っている。主役以外は地べたに座っているが、皆で囲んでいる料理も中東料理では無く西洋料理だった。料理を担当したのはシルフィで、ミトは調理中にリングの摘み食いから食材と料理を保護する任務を行っていた。
中央に大きな手作りチーズケーキも置かれている。未だ『待て』とミトに指示されている猫は、ブニャブニャ文句を言いながら美味しそうな食べ物達を口から涎を流しながら眺めている。生か超シンプル調理品しか食べられないヒュウラの為の超シンプル調理された料理も複数置かれていた。ヒュウラは軍曹に背中越しに抱えられている。ワシワシ制限は解禁されていないが、パーティ開始直前に1回目のワシワシを既にしてヒュウラを1回気絶させていた。2回目以降のワシワシはリング同様に『待て』をされている。此方はシルフィに『待て』をされていた。
今日だけだが、皆んな戦争を忘れる事にした。アジトの見張り役は今日も当然居て彼らは仕事中戦争を忘れる事は出来なかったが、飲酒を禁止されている宗教を信仰している彼らはその日だけ見張りを軍曹以外の部隊員全員で交代しながら行う事で、全員が平和な隊長の誕生日パーティに参加出来るようにしていた。
軍曹は幼少期に頻繁にフルコース形式で食べていたが、他の部隊員達は初めて食べるアグダードの外の世界の料理は非常に美味だった。食事を解禁されたリングは、量は調整されたが嬉しそうにニャーニャー鳴きながら人間の料理を堪能する。ヒュウラも焼いただけの鶏肉を満足そうに食べていたが、今も食べたくて仕方が無い大好物の海苔付き醤油煎餅はやっぱり無かったので、内心少し辛かった。
もう1つの好物になっているライム&オレンジジュースを飲む。軍曹は別のライム入りの飲料を飲んでいた。ノンアルコールのライム入りモヒートと一緒に、嬉しそうに食事を堪能しはじめた。
側にライムが山のように乗っている皿が置かれている。軍曹はライムを1つ掴むと、右手で握り潰して汁をふんだんに掛けてから、パスタ料理を食べようとする。軍曹の横に座っている朱色目は、被っている黒い布から小さな物体を取り出す。小瓶に入った赤い粉を、コルク栓を抜いて己の皿のパスタ料理にふんだんにかけた。
粉チーズのかけ過ぎのように真っ赤な粉がてんこ盛りになったパスタ料理を見ている軍曹とシルフィ達に、視線に気付いた朱色目は弁解するように言う。
「カプサイシンです。コレは、カプサイシンっ!!」
朱色目はカプサイシンという物体をパスタに大量に混ぜ込んでから食べ始める。ライム汁がかかりまくってバシャバシャになっているパスタを持ちながら、軍曹は朱色目に言った。
「ソレ絶対ヤベエ粉だわ」
そして己のバシャバシャパスタを、何事も無く食べ始めた。
(……完!?)
ミトは側近の謎の粉ぶっ掛けを『ヤベエ粉だわ』の一言だけでサッパリと終わらせた軍曹に、衝撃を受けて固まる。
カプサイシンという名の赤い謎の粉とライムの汁をアグダードの外の国の料理にもかけまくる男2人に、料理を作ったシルフィは、眉間に深い皺を彫りながらぼやいた。
「私の料理まで味変するなんて、侮辱してるわね」
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