Valkan Raven #1-2

1-2

 『指名型殺人掲示板』の管理人に指示された『帝鷲町(ていしゅうちょう)』は、関東地方のとある場所にある小さな町である。
 辺境に近く名産品も郷土料理も無いので、関東地方の人間すら名前を知らない者が多いらしい。と言っても関東地方なぞ、他の地方や外国からの移民と旅行者ばかりに溢れた出稼ぎと観光の土地なのだから、自分の住んでいる場所の情報を事細かに全て知っている人間は滅多にいないだろう。
 小さな駅に少ない乗客を吐き出して、古ぼけた電車が動き出す。魅姫は誰も居ない車両の座席に腰掛けながら、外の景色を眺めている。空が血の色をしており、激しかった雨はすっかり止んでいる。ここ数年の日本の気候は狂っている、4月なのに夏のような通り雨が時々降ったりする。
 腕時計を見ると、午後6時半を指している。電車は時々カーブをしながら、機械らしくただひたすらに人間達を目的地に運んでいる。
 ――スマートフォンは途中で捨ててきた。あの遣り取りの後、完全に壊れて使い物にならなくなっていた。一応契約している携帯電話ショップに行って、解約手続きをしておいた。
 これから自殺するのに、これ以上あの下らない親戚達に迷惑なんかかけたくない。……それよりも、
 送られてきたメールに書いていた、4桁の数字の意味が分からなかった。1946?この依頼に関係あるのかな?――
 やる気の無い車掌の声が、スピーカーから次の到着駅を告げる。「帝鷲町」と2回聞こえると、魅姫は立て掛けていた蝙蝠傘を持った。

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