Bounty Dog 【清稜風月】117-118
117
睦月の中で、槭樹もK容疑から外れた。日雨の手紙に微塵も興味を示さなかった上に、公に誰にも存在を知られて無いのにわざわざ己の事を他の者に教えてから探す素振りをするというアリバイを作る犯人なぞ、存在しないと思ったからだった。
更に槭樹の言葉を聞いて、睦月の中で麗音蜻蛉殺し情報を和菓子屋に提供して和菓子屋を”捌いた”犯人が2人に増えた。Kの他に”S”という人間も関与しているらしい。非常に有力な情報を手に入れたが槭樹と己は身分の格差が大きい為、相手に詳細を尋ねる事は出来なかった。
入出国審査所への調査も、この日は担当者達が槭樹への対応を優先していた為、己には情報を余り教えてはくれなかった。槭樹と彼の御付き達が港から去って、彼らの去り際に御付きに向かってバウバウ吠えようとしたヒュウラに『黙れ』の意を込めて網を再び被せる。睦月は入出国審査所まで網入り狼を引き摺って行き「与えられる情報は無い」と言い続ける担当者達に、食い下がった。
努力の長時間徹底食い下がり作戦が実って、至極睦月を面倒臭がった担当者の1人に”S”の情報だけは教えて貰った。ヒュウラが入国した卯月の初日に、Sの頭文字で始まる名をした人間が57名入国しているらしい。国籍は無論皆バラバラだが、1名だけ単身で海外旅行をするには異常に荷物が少なく歳も若過ぎる怪しい人間だったので印象に残ったと、伝えられた。
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