Bounty Dog 【アグダード戦争】199
199
4棟の応接間にいるシルフィ達と同様に、ヒュウラもその場から全く動けなかった。シルフィ達のように強大な殺気を受けて硬直しているのでは無い。食物連鎖の頂点に君臨する動物の亜人は、お化けや亡霊のような此の世のモノで無いもの以外は”怖い”の対象にならない。
頭は極めて冷静だった。でもまた、嫌な予感が強くする。
だが、食物連鎖で低い位置にいる動物の亜人である、己の”足”になってくれているリングが、また酷く怖がっていて床に下ろされた状態のまま、己は全く動けなくなっていた。ヒシャーム以上に悍ましい殺意の波動を纏った何かが、己達が”可哀想なモノ”と一緒にいる2棟の隠し部屋の遥か奥からやってきて、何処かに向かって歩いて行くのを気配だけで感じてから、随分と時間が経った。
遠くの場所から激しい爆発音と銃声が暫く響いた。その後で、湿った何かを強く殴っているような音が延々と響いた。悍ましい狂った笑い声がその間ずっと聴こえた。知っている人間の声が其れをしていた。そして、急に全ての音が止んだ。
少ししてから、別の笑い声が小さく聞こえてきた。今は、不気味な程の静寂に延々と包まれている。
ヒュウラは、嫌な予感がまた当たってしまう前に、エゴイストだと思う”運命”にまた勝手に奪われてしまう前に動きたかった。だが出来ない。己は自分の足で立ち上がって歩く事が一切出来ない。猫は恐怖に震えながら、未だボロボロ泣いている。
”可哀想なモノ”を2種の亜人は一緒に掻き集めて、モノから一度外していた赤い綺麗なスカーフの上に全て乗せた。袋のようにスカーフを縛って、縛り口に翡翠で出来たライムのピンバッチを付ける。一緒に別の宝石のピンバッチも付けた。”可哀想なモノ”の中からヒュウラが見付けた物だった。
カメレオンに傷一つ付けられずに、其れは残っていた。エメラルドとルビーと小さなオニキスで作られた、スイカのピンバッチ。
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