Bounty Dog 【アグダード戦争】144-145

144

 “ガイ”は見事なステップを踏みながらパレード会場で踊り出した。スピンとドリフトを猛烈な回数で細やかに行う。神がかり的なテクニックでトラックを完全に生き物に変えたシルフィ・コルクラートの運転技術によって、地面に落ちたミサイルの衝撃波を受けてもちょっと揺れる程度でしか無い軍用トラックは、抜群に屈強な筋肉ムキムキマッチョの人間か亜人の男を彷彿とさせるモノにしか見えなくなった。
 鼻血が出る程、違う意味で滅茶苦茶格好良い無機物だが、1発だけミサイルを受けていた。場所は荷台の中央部。爆発は小さかったが大きめの穴が空いて、ミトが組み立てていた役目を終えているミサイル発射装置が、穴に吸い込まれて地面に落とされていった。
 ミトが穴に落ちかけて、軍曹が助ける。リングは荷台の端を掴んだまま、出ない何かを口から出そうと激しく嘔吐していた。ヒュウラは相変わらず動かない。仏頂面のまま、己に巻かれたシートベルトを引っ張ったり離したりしている。シルフィが片手で操作しているギアチェンジ用のレバーを見る。上下左右にグネグネ動かされる1本のチェンジレバーと、右手に掴まれている大きなハンドルを順に見てから、顔を上げて、一点を凝視した。
 最後の第4群、最多となる7本のミサイルが、一斉にトラック目掛けて飛んでくる。

 軍曹がヒュウラの為に用意した、元戦車の外装だった巨大盾が横に倒れて穴を塞ぐ。2代目も巨斧だった初代顔負けの万能道具振りを見せてくれると、道具の主が、己の元に転がってきた別の道具を拾った。
 軍曹が投げ捨てた、折れた短い鉄パイプバット。ヒュウラは自分を固定しているシートベルトに鉄パイプを突き刺した。ベルトの一部をとある人間の子供が創作御伽噺で良く使う武器のような形にして握り持つと、玉代わりにする”目星を付けているモノ”を手に入れるチャンスを伺った。

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