Bounty Dog 【清稜風月】71-72

人間も他の動物も、西洋の生き物も東洋の生き物も、回るモノが好きである。

71

「槭樹さんは、少々思考に偏りがある事で有名なんだ。だから注意して扱って欲しい」
 昨晩、睦月から言われた警告をヒュウラは頭の中に刻んでいた。同時にその数分後に日雨から言われた言葉も、頭の中に刻んでいた。
「次は槭樹さんにお煎餅と文(ふみ)を渡してね。隠密、宜しゅう頼む」
 『世界生物保護連合』の特別保護官として任務をこなす狼の亜人ヒュウラは、東の島国『櫻國(おうこく)』に滞在して23日目になった。そして保護対象(ターゲット)である虫の亜人・日雨から任命された”忍者犬”としては、今日が2回目の任務日となる。

 約半年前に国際保護組織で亜人課現場部隊長だったデルタ・コルクラート保護官と組んでいた頃、ヒュウラは『煎餅1日1枚』と決められて与えられていた。半年経って、その意味を染み染みと感じていた。ーー大量に食べ過ぎると飽きるからだった。今、己は煎餅を食べ過ぎて少々飽きてしまっている。
 また食べたくなるまで、海苔付き醤油煎餅を食べるのは控える事にしていた。緑茶と炊いた白米は飽きていないので、櫻國滞在中は毎日飲んで食べていた。時々日雨や睦月がくれる木の実もおやつとして食べながら”麗音蜻蛉殺し情報漏洩容疑者・K”の捜索を睦月と日中行い、夜は山の頂上付近に建つ一軒家の縁側で日雨から”笑顔の特訓”を受けていた。
 昨晩から”笑顔の特訓”は中断されて、任務が始まった。己は飽き掛けている日雨が作った海苔付き醤油煎餅10枚を入れた竹籠を包んだ風呂敷に日雨が書いた巻物型の手紙が差し込まれた”密書付き菓子折り”を、櫻國の人間達を指導している権力者2人に渡すという、依頼者には極めて重大だと言われた隠密任務だった。
 密書送り相手(ターゲット)の片方には昨晩、依頼者の虫の亜人を連れた状態で相手が暮らす『箱』に侵入して無事(?)に渡してきた。今日はもう片方のターゲットに密書付き菓子折りを直接持って行って渡してくる事になっている。
 実行は、今夜。また睦月に邪魔されないように、今回は同行出来ない日雨が睦月の注意を逸らしている間に、ターゲットの住んでいる『箱』ーー町の隅にあった、あの巨大で全体的に重厚だった『イヌナキ城』という場所に向かう予定だった。

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