Bounty Dog 【アグダード戦争】250-252
250
(無事に侵入出来たみたい。さっきは見事な火の輪潜りをしてくれたね。次は中でイリュージョンをしてくれると嬉しい。君達なら、出来るよね?)
251
「あぎゃああああ!だから、其れはセールでも買う事は出来ないでやんすよ!?非売品でござんす。親びーん!!」
麻薬・奴隷商会のイシュダヌ勢力商会支部の天井付近に張り巡らされた”毒霧装置換気用”通路を非常に低い姿勢で人間の暗殺者か諜報員のような動きで走り回っている狼の亜人に、その背に乗っている紛争地帯暮らしのモグラの亜人は悲鳴混じりに話し掛けた。2種の亜人の背後を、猫の亜人が小さい鳴き声を出しながら付いていく。
ミサイル放火と地雷原という凶悪極まりない火の輪をコルドウ達の協力で潜り抜けたヒュウラは、更に水中高速移動イリュージョンを完了させていた。更なるイリュージョンを建物の中で行おうとしている。イリュージョンも火の輪潜りも名前すら知らないモノだった。ただ其れを、遠くの地で様子を見守っている敵か味方か分からない人間に期待されている。
人間が考えている計画を一切何も知らない、人のような姿をしているが人では無い極まる自由の中で生きている命達は、別の人間と仲間の亜人達の為に命を張る覚悟を強く抱いていた。ミディールを背に乗せながら俊足で移動を続けているヒュウラは、突然急停止すると背に乗った子分モグラに、床に爪で覗き穴を開けるように指示する。
親愛なる親びーんに指示されて、ハートマークを吹き出しながらミディールは50音字の最初と二番目を交互に連呼して鋼鉄の爪で小さい穴を6個開けた。3種の亜人達が天井の下の様子を見つめる。見えたモノ達を凝視しながら、ヒュウラは仏頂面で独り言のように呟いた。
「神輿を、神輿を壊す」
「ラフィーナが怒るでそうろう……」
ミディールの言葉も態度も完全に無視された。ヒュウラは『イシュダヌ城』の外にいた時から既に確信していた。ーーやはりこの場所の殆どの人間達は頭が狂ってる。何かの闘いに負けて、勝ったあのイシュダヌという人間に”アレ”を担がされてしまった。
此処にはミトが俺に教えてくれた、人間が作った最悪最凶の兵器『神輿』がある。先ずは見付けて、其れを全部壊さねば!ーー
3種の亜人達が見ていたモノは、牢屋に閉じ込められている大勢の人間達だった。全員が手足と首に枷を付けられている。虚な目をしていた。涎を垂らしている人間達も多い。
傍に、あの花が花瓶に入って置かれていた。中央が黒く周囲が真っ白い不気味な花ーー人間が実を使って頭が狂う麻薬を作り出す、エゴの犠牲にされ続けている哀れな花ーー阿片の花。
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