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第5章 ルイ14世の時代の小冊子

 これから私はティケ夫人の死後に続く嘆かわしい歴史について述べる。そうした嘆かわしい歴史に繋がる出来事は、この女の処刑に先立つことなので、私はルイ14世の御世の前半まで遡らなければならない。偉大なる王が紋章にかたどった太陽でさえ翳り始める。

 アウグスブルク同盟[1686年に勢力を強めるフランスに対して警戒を強めた諸国が結成した同盟。1688年、フランスはドイツの領邦国家プファルツの継承権の獲得を名目に開戦した。世に言うアウクスブルク同盟戦争である。アウクスブルク同盟戦争は1697年まで続き、フランス国内で厭戦感情が高まってルイ14世の治世に翳りをもたらした]は、三十年戦争と膨大な浪費によって疲弊していた国庫に最後の一撃を加えた。フランスはフルーリュス[現ベルギー中部の町、1690年にフランス軍とオランダ軍が衝突した]、ネールウィンデン[現ベルギー中部の町、1693年にフランス軍とイングランドとオランダの同盟軍が衝突した]、そしてマルサリーア[現イタリア北西部にある町、1693年にフランス軍とサヴォイアとスペインの同盟軍が衝突した]で勝利した。しかしフランスは栄光に飽き飽きして、そのような勝利にかかった費用を計算するようになった。ラ・ウーグの災厄[1692年に英艦隊がフランス北部にあるラ・ウーグ近海で仏艦隊を撃滅した戦い]とルイ14世自ら主導した1693年の軍事作戦の失敗は、君主もただの人間に過ぎないということを国内外に示した。リシュリューの手から受け継いでルイ14世が達成したフランスの統一は容易に完了しなかった。ルイ14世は大きなあやまちを犯した。政府に統一をもたらした後、ルイ14世はそれを臣民の信仰にも及ぼそうとした。1685年10月17日、ルイ14世がナントの勅令を撤廃したせいでフランスではルヴォア[17世紀フランスの政治家;、ルイ14世の陸相となって陸軍の改革および増強に努めた]が長靴を履いた宣教者[仏原文はmissionnaires bottés、竜騎兵を新教徒の家に泊まらせて強制的に改宗させるといった行為が横行したという]と呼ぶ異様な宣教者が蔓延した。1686年1月、子供を手元に置く権利を
新教徒から剥奪する勅令が出された。「異端者」は大挙して国外に移住した。故国を捨てた者たちは、彼らを抑圧した専制的な権力に対して根深い憎悪を抱いた。国民の革命的精神が目覚めたのはその頃のことだ。民衆による財産返還要求が始まった。それは小冊子の戦争によって開始された。そうした攻撃はより危険であった。なぜならルイ14世の個人的な威信では君主の偉大さを長らえることはできないからだ。ラ・ヴァリエール、フォンタージュ、そしてモンテスパン[いずれもルイ14世の愛人]といった騎士道的な愛人は、1684年に足萎えのスカロン[17世紀フランスの詩人]の未亡人[マントノン侯爵夫人のこと。マントノン侯爵夫人は1683年10月にルイ14世と秘かに結婚したと言われている。簡約英訳版にはマントノン侯爵夫人の肖像画が挿入されているが、仏原文には挿入されていないの省略する]の結婚を支持した。半神[ルイ14世のこと]の突然の凋落は敵対者に恐ろしい武器を与え、小冊子出版者はすぐにそれに乗じた。『自由を切望する奴隷フランスのため息[仏原文はLes soupirs de la France esclave, qui aspire à la liberté、1689年に刊行されたパンフレット]』という小冊子が大きな反響を呼び起こした。自由への渇望は教条的な言葉で示されていたものの、斬新だったので浮ついた者たちの心を捉えた。しばらくの間、大衆と警察の間で衝突が起きた。警察は熱心に小冊子の写しを捜索した。大衆はそれを読み、警官はそれを破壊するというわけだ。もちろんこうした出来事は、多くの人びとをバスティーユや拷問室へ送り込むことになった。

 ルイ14世の治世が王冠の尊厳に対するそのような試みすべてに厳しく対処していれば、王の寵愛を受けた者を敢えて攻撃する者に対して容赦がなくなるのは当然のことだろう。王は、マントノン夫人との結婚によって自分が政治的なあやまちを犯したときっと気づけたはずだ。しかし、王は愛欲に毒されていたので、最もひどい犯罪がお切りまで自分のあやまちに気づかなかった。1694年、『スカロン氏の影[仏原文はL'ombre de M. Scarron]』という題名の中傷がパリとヴェルサイユに出回った。小冊子は、主君の栄光のためにラフイヤード元帥によってヴィクトワール広場[ パリ中心部にある広場。]に建立された記念物を模した版画で飾られていた。王の足元に鎖につながれた四つの像がある代わりに、ラ・ヴァリエール、フォンタージュ、モンテスパン、そしてマントノンの4人の女の間で鎖にしばられた王がいる。

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