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アメリカ人の物語4 建国の父 ジョージ・ワシントン(上) 連載16号

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就任演説

宣誓が終わり、群衆に向かって何度もお辞儀をした後、ワシントンは上院会議場へ戻る。入って来たワシントンを議員たちは立って迎える。そして、ワシントンが一礼した後に着席した。

イギリス議会の慣例では、国王が庶民院で演説する場合、議員たちは敬意を示すために起立したままで拝聴する。それは議会に対する国王の権威を示している。しかし、ここは共和制の国アメリカである。大統領は国王ではない。そこで議員たちは、行政府と立法府が対等であることを示すために座ったままで大統領の演説を聞くことにした。

「上院と下院の同胞市民へ。人生にとって予測できない出来事の中で、あなた達の命令によって伝えられ、今月十四日に受け取った告知以上に私を大いなる不安で満たした出来事はありません。その一方で、私は敬意と愛情を抱いて聞かざるを得ないわが国の声によって、老年期の避難所として不変の決意で選択した退隠、そして、年月の経過とともに衰える私の健康とたび重なる障害のせいで必要としていた安逸の日々から呼び戻されました。その一方で、わが国の声が私に求める信任があまりに大きく困難であるが故に、最も賢明で経験を積んだ市民は、私の資質に不信の目を向け、私の欠点に落胆するかもしれません。こうした感情の鬩ぎ合いの中、私が敢えて断言できることは、どのような場合でも私が果たすべき義務を忠実に努めることです。[中略]。合衆国の国民以上に、人間のあらゆる事象を司る神の見えざる手の存在を認め、畏敬の念を持つように運命づけられた国民はありません。我々は独立国家としての体裁をなしつつありますが、これまでの一歩一歩の歩みの中に、神の摂理の働きを読み取ることができるように思われます。[中略]。自由の聖なる炎の保全と共和政体の運命は、まさにアメリカ国民の手中に委ねられた実験に託されています。[中略]。私は最も適切に下院に通告するべき意見を一つ付け加えたいと思います。それは私自身に関することなので、できる限り手短に済ませます。自由を求める独立戦争のために、光栄にもわが国が私に奉仕を求めた時、私は果たすべき義務を検討したうえであらゆる金銭的な補償を受けるべきではないと考えました。こうした決意を違違えたことは一度もありません。したがって、たとえ行政府の規定に含まれていようとも、私は私自身が納得できない個人的報酬を謝絶します。私の在任中、公共の善から必要だと考えられる実費に限定して報酬を受け取りたいと考えています。[中略]。神は、アメリカ国民に冷静に審議する機会を与えただけではなく、連邦の統一を確保して幸福を増進するために必要な政体に関する満場一致の採決をおこなう機会を与えました。したがって、引き続きその神聖な祝福が、この政府の行く末を決定する幅広い視野、節度ある議会、そして、賢明な政策にも等しく及ぶように祈願します」

演説に要した時間は二〇分だったという。荘重だが冗長なので名言というべき文句は少ない。それでも「自由の聖なる炎の保全と共和政体の運命はまさにアメリカ国民の手中に委ねられた実験に託されています」という文句は今も語り継がれる名言である。またワシントンは、政府が国民の自由と幸福追求の実現という目的のために樹立されたと説いている。それだけではなく、自由とそれを保障する共和制を保持できるか否かは国民自身にかかっているとも述べている。つまり、国民自身も、自由の精神を守るために努力しなければならないと諭している。

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