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ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説3―My Shot 和訳


はじめに 

ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。 

物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。 

劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。 

 ”My Shot" 

※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。

※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠。『Hamilton the Revolution』は歌詞だけではなく、オールカラーで劇中の写真が掲載されている。英語が読めない人でも眺めているだけで嬉しいファン・ブック。

LAURENS, MULLIGAN, LAFAYETTE:

Ooh, Who are you?

「おや君は誰だい」

LAURENS, MULLIGAN, LAFAYETTE:

Ooh, who is this kid? What's he gonna do?

「この少年は誰。いったい何なのだ」

解説:1776年当時、ハミルトンの実年齢は21歳だが、大学に入学するために二歳年長に偽っていたので実際は19歳だった。

HAMILTON: 

I am not throwing away my shot! I am not throwing away my shot! Hey yo, I'm just like my country, I'm young, scrappy, and hungry, And I'm not throwing away my shot!

「私は諦めないぞ。諦めないぞ。私はこの国にふさわしく、若くて喧嘩っぱやくて野心的だ。だから私は諦めないぞ」

解説:「I am not throwing away my shot」は文字通り訳すと、「私の砲弾を投げ捨てたりはしない」という感じになる。これはハミルトンが砲兵隊長として活躍していたことを意味している。その場合は「砲弾を無駄にしないぞ」という感じになる。

『ハミルトン』のスタッフが「Don't Throw Away Your Shot」と劇場の外に並ぶ人々に投票登録するように呼び掛けたことがあった。つまり、「あなたの大事なもの(投票権)を捨てないで」といったような意味で使っている。

したがって、ハミルトンは、これから生まれようとしている新国家アメリカのように、大事なもの(野心や向上心)を捨てずに諦めずに頑張るぞという決意を述べている。

I'm'a get scholarship to King's College I prob'ly shouldn't brag, but dag, I amaze and astonish. The problem is I got a lot of brains, but no polish I gotta holler just to be heard. With every word I drop knowledge!

「キングズ・カレッジで学位を得たら、自慢はしないけれど、ああ、たくさん知識を詰め込み過ぎるのが悩みの種になるかもだけど、あらゆる言葉で知識をひけらかして大声で言って回ったら粋じゃないってことはわかっている」

解説:カレッジ・オブ・ニュー・ジャージー(現プリンストン大学)に入学できなかったハミルトンは、キングズ・カレッジ(現コロンビア大学)に進学。

この当時、大学は数が少なく規模も小さかったために、大学生は非常に少数であった。入学できるのは上流家庭の子弟に限られ、卒業する生徒数はせいぜい数十人程度しかいなかった。卒業生は主に弁護士、政治家、牧師といった道に進んだ。ハミルトンも後に弁護士として活躍することになる。

この頃のハミルトンはすでに洗練された物腰を身に着けていて、その来歴を知る者を驚かせていた。

I'm a diamond in the rough, a shiny piece of coal Tryin' to reach my goal, my power of speech: unimpeachable. Only nineteen, but my mind is older. These New York City streets getting colder, I shoulder Ev'ry burden, ev'ry disadvantage I have learned to manage, I don't have a gun to brandish. I walk these streets famished. The plan is to fan this spark into a flame But damn, it's getting dark, so let me spell out my name, I am the— 

「私は荒削りのダイヤモンド、輝く石炭の一片。目標を達成すべく努力する。私の弁舌にはけちがつけられない。まだ十九歳だが精神は十分に成熟している。ニュー・ヨーク・シティの通りが寒くなると、いろいろ大変なことがあるけれど、何とかできるようになった。私は振り回すような銃を持っていない。通りをお腹を空かせて歩く。何とか火を熾して明るくしようとする。でも暗くなったら私の名前をはっきりと告げよう」

解説:キングズ・カレッジでハミルトンは討論術を学ぶクラブに入って、すぐに頭角を現した。そして、1774年7月6日、ボストン茶会事件が起きた後、イギリス政府の強圧的な措置に対して反感が高まる中、キングズ・カレッジのすぐそばで反英集会が開かれた。集会でハミルトンは即興の演説を披露して注目を集めた。

第1回大陸会議が終わった後、ニュー・ヨークでは反英的な動きに警戒を強める本国支持派が論説を展開した。ハミルトンは仲間たちとともに論説を焼き捨てた。こうしてハミルトンの名前はペンと弁舌の力によって多くの人々に知られるようになる。

HAMILTON, LAFAYETTE, MULLIGAN, LAURENS: 

A-L-E-X-A-N-D-E-R—we are—meant to be... 

「すなわちALEXANDERという名前を」

HAMILTON: 

A colony that runs independently. Meanwhile, Britain keeps shitting on us endlessly. Essentially, they tax us relentlessly, Then King George turns around, runs a spending spree. He ain't never gonna set his descendants free, So there will be a revolution in this century. Enter me! 

「植民地は自立しているのに、イギリスは我々の上にずっと居座っている。すなわち、我々に容赦なく課税する。国王ジョージ3世は驚いたことに金遣いが荒い。彼は臣民を自由にしようとはしないのだ。だから今世紀に革命を起こそう。私とともに」

解説:西インド諸島からアメリカに移ってそれほど時間が経っていないのにもかかわらず、ハミルトンはアメリカの独立運動に急速に染まった。まさに時代の熱狂が乗り移ったかのように。

先のフレンチ・アンド・インディアン戦争で莫大な借金を抱えたイギリス本国は、これまでの植民地政策を一転させた。従来、イギリスは植民地のアメリカから原材料を輸入して、本国で加工して高付加価値の製品をアメリカやヨーロッパに輸出して莫大な富を得ていた。そのためアメリカからの税収をあまり期待していなかった。

しかし、フレンチ・アンド・インディアン戦争による借金に加え、新たに獲得した領土を守るためにさらなる費用が必要になったために、アメリカから厳しく税を徴収することにした。本国人と比べると植民地人が課税された税金は少なかったが、それでもアメリカ人の反感を買った。これまで養ってきた自治の精神を著しく損なう措置だったからである。

LAURENS, LAFAYETTE, MULLIGAN: 

(He says in parentheses) 

「(彼はついでに言う)」

解説:ミランダによればこの台詞は「ト書きによるユーモア」である。

HAMILTON: 

Don't be shocked when your hist’ry book mentions me. I will lay down my life if it sets us free. Eventually, you'll see my ascendancy, 

「歴史の本に私の名前が出てきてもびっくりしないように。もし我々の自由のためなら私は命を賭けるだろう。君達はきっと私が立身出世するのを見るだろう」

HAMILTON and (LAURENS): 

And I am not throwing away my shot. (my shot!) I am not throwing away my shot. (my shot!) Hey yo, I'm just like my country, I'm young, scrappy, and hungry And I'm not throwing away my shot. (And I'm not throwing away my shot.) 

「私は諦めないぞ。私は諦めないぞ。私はこの国にふさわしく、若くて喧嘩っぱやくて野心的だ。だから私は諦めないぞ」

HAMILTON, MULLIGAN, LAURENS, LAFAYETTE: 

I am not throwing away my shot. I am not throwing away my shot. Hey yo, I'm just like my country, I'm young, scrappy, and hungry And I'm not throwing away my shot. It's time to take a shot! 

「私は諦めないぞ。私は諦めないぞ。私はこの国にふさわしく、若くて喧嘩っぱやくて野心的だ。だから私は諦めないぞ。さあ今こそ一杯ひっかける時だ」

解説:ここで4人は酒を飲んでいる。

LAFAYETTE:

I dream of life without the monarchy. The unrest in France will lead to 'onarchy 'Onarchy?" How you say, how you say, "anarchy?" When I fight, I make the other side panicky. With my—

「君主なき生活を私は夢見ている。フランスにおける騒擾はonarchyに至るだろう。onarchy・・・・ああ無政府状態と言うんだね。私が戦えば、敵側をパニックに陥れるぞ・・・」

解説:「onarchy」というのは君主がいない体制(anarchy:an[~なき]+arkhos[指導者])と言いたいところを言い間違えたもの。ラファイエットはフランス貴族なのでもともと英語を話せない。そのためフランスからアメリカに渡る船中で英語を勉強している。アメリカでラファイエットは、英語で話し、英語で手紙を書いたが、フランス語を話せる親しいアメリカ人とはフランス語で話すことがあった。

ラファイエットが独立戦争に参加するのは少し後のことになる。独立戦争は、「アメリカ独立革命」と呼ばれるように市民革命の一つと位置付けられている。ここでラファイエットが言及しているのは後のフランス革命についてだろう。

「other side」は「敵側」といった意味にもとれるが、大西洋の「向こう側」という意味にもとれる。つまり、アメリカ独立革命がフランス革命に影響を及ぼしたということである。建国期のアメリカ人は、フランス革命がアメリカ独立革命の正統な後継者だと思っていた。

ただラファイエットは、フランス革命において急進派ではなく国王の打倒を目指していたわけではないことは注意すべきである。

HAMILTON, MULLIGAN, LAURENS, LAFAYETTE: 

Shot! 

「砲弾で」

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