『ロラン夫人回顧録』第一部③
私の母は思慮深く優れた性質を持っていたので、すぐに強い影響を私に与えた。そのおかげで私は従順で心優しい性格になった。母はそうした影響力を私のためになること以外には使わなかった。ただ影響力があまりに強かったので、物事の道理とそれに抵抗する子供の間で避けられない行き違いが起きた時、母は「お嬢さん」と冷たい感じで言って厳しい目でじっと見つめるだけで私を罰するだけでよかった。いつも慈愛に溢れている母がそうした厳しい目をしたことはいまだに強く印象に残っている。「私の娘」という甘美な呼び方や「マノン」という優しい呼び方の代わりに、とても厳粛な「お嬢さん」という言葉が発せられるのを私は震えながら聞いた。「マノン」というのは私が呼ばれていた名前だ。私は小説の愛好家を残念に思っている。マノンという名前は崇高ではなく、荘重な文芸の女主人公にはふさわしくない。ただマノンという名前は私の名前であるし、私が書いているのはマノンの話である。それにどんなに気難しい者であっても、私の母がマノンという名前を呼ぶのを聞き、その名前を帯びる者を目にすればたちまち機嫌を直すはずだ。母が愛情溢れる声でその名前を呼べば、どのような表現でもそのすばらしさを伝えきれないのではないか。さらに母の優しい声が琴線に触れれば、母を見倣わずにいられないのではないか。
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