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第39章 シャルル=アンリ・サンソンの日記

芽月16日[4月5日]

 昨日、私は市民フーキエの命令に従って夕刻まで裁判所にいた。これまでと同じく、議員諸氏の裁判がおこなわれている自由の講堂に入ることはできなかった。なぜならかつてないほどに傍聴者が多かったからだ。9時頃、私は家に帰った。今朝、私は明け方にコンシェルジュリに戻った。中に入ろうとすると、憲兵が私の肩を叩いて「今日は獲物がたくさんいるぞ」と言った。さらにリヴィエールが「奴らは全員が有罪だ」と言った。彼は間違っていた。なぜなら市民リュイリエは無罪放免になっていたからだ。リュイリエはたいした人物ではないので彼のことを忘れてしまってもきっと大目に見てもらえるだろう。リシャールの家にはすでに大勢の群衆がいた。おそらく罪人たちが出てくるのを見ようとしているのだろう。罪人たちはひとかどの人物ばかりだ。牢獄の扉はまだ開いてなかったので、おそらくあの者たちはそこで一晩を過ごしたに違いない。中庭を通って裁判所に入ろうとした時、私は裁判所の書記官補のロベール・ヴォルフに会った。彼は、一緒に来るように私に言った。書記課の部屋には第ニ書記のデュクレがいて別の書記官補とともに何か書き物をしていた。ファブリシウス・パリは歩き回っていた。ファブリシウスは赤い目をして憔悴して唇まで真っ青だった。唇はまるで熱病にかかったかのように震えていた。私が入って来るのを見ると、彼は帽子を取って「私はもう行きます」と言った。デュクレは彼のほうに向き直って「署名しますか」と言った。市民ファブリシウスは「いいえ、断じて否です。そうするくらいなら手を切ったほうがましだ」と答えた。彼は出て行った。私は彼の目に涙が浮かんでいるのを見た。私はそれに驚かなかった。というのは彼は市民ダントンの親友であったからだ。彼の勇気を見て私の心は弾んだ。フーキエはかつて親戚のデムーランをかばっていたが、そのような気概はなかった。ほどなく検事代理の市民レスコ=フルーリオと2人の所轄の行政官がやって来た。レスコーは、馬車を手配してあるかと聞いた。私は、馬車を手配していると答えた。それから彼は下に降りて待っているように命じた。私はそのとおりにした。

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