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アーサー・コナン・ドイル北極日記5月27日

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5月27日木曜日

早朝、氷が我々の周りを閉ざし始めた。閉じ込められたり、凍えさせられたりしないように我々はできる限り外の海に向かって道を切り開くために汽走しなければならなかった。外に出ることは大変な仕事だった。エクリプス号は我々の後方についてきた。船長はエクリプス号に行って夕食を摂って8時頃まで滞在した。船長が離れている間、私はタバコを吸ったり眠ったりチェッカー[訳注1]をしたりボクシングをしたりしていた。我々はさらに北に何があるか確認するために北極氷壁[訳注2]がある北緯80度に達した。この付近の海上の恐怖は、Swordfish[訳注3]と呼ばれる動物だが、まったくSwordfishと呼べる代物ではない。それはクジラの一種であり、サバのような長い口先を持ち、顎いっぱいに鋭く尖った歯を持つ。それは長さは25フィート[7.5m]に達し、大きく曲がった背ビレという特徴がある。最大級のサメやアザラシ、クジラさえも捕食する。先年、海峡地帯でユールというエスキモー[訳注4]は6頭ものクジラを捕ったが、それが近くに来た時、船に身を隠して縮こまっていたという。船長は、ある日、マストの上の見張り台にいた時、船の前方で大きな騒ぎが起きているのを見たと私に言った。望遠鏡で覗いてみると、小さな氷の上に巨大な体のゾウアザラシがいるのが見えた。その周りの水中には、数匹の血に飢えた魚がいた。それはかわいそうな生き物を長いヒレで打ち、さっさと始末しようと尾ビレで叩きのめそうとした。船長によれば、船が接近した時、かわいそうなアザラシは船を大きな目で見つめたかと思うと、氷の上から大きく跳躍して、水面から顔を出して舷側まで一泳ぎした光景を忘れることができないという。ゾウアザラシの頭は船尾の手すりよりも高く、もう少しで甲板に届きそうだった。ボートが下ろされると、その大きな12フィート[3.6m]にも達する生き物がよじ登ってきたので[船員に]頭を殴られた。ボートが攻撃されないように魚に向けて銃弾が発射された。魚は獲物を見失って苛立っているようだった。

訳注

訳注1:チェス盤上で各12 個のコマを用いて2人でするゲーム。

訳注2:北極圏の中心部にある厚い氷。

訳注3:Swordfishは一般的にはメカジキを意味するが、「顎いっぱいに鋭く尖った歯を持つ」と書かれていることから成魚になると歯がなくなるメカジキではない。さらにドイル自身の挿絵からすると、シャチのことだと考えられる。ドイル自身は「Orca gladiator、もしくはkilling grampusはクジラの獰猛な一種であり、長く高い背ビレを持つがゆえに昔のグリーンランドのクジラ漁師からswordfishという異名を付けられた」と書いている。

訳注4:現代では「イヌイット」という呼称が使われることが、原文表記のままとした。

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