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アーサー・コナン・ドイル北極日記3月28日

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3月28日日曜日

ハギー[の容態]が再び悪くなったので、私は彼にクロロダイン[訳注1]を投与した。船長はエクリプス号に行った。少しして私を夕食に招待するために小さなボートが来た。それから良いワインとともに楽しく食事した。話題になったのは戦争、政治、北極、ダーウィニズム[訳注2]、フランケンシュタイン[訳注3]、自由貿易、捕鯨、そして、地元の事柄などである。デイヴィッド船長は我々が置かれた状況について厳しい見方を持っているようだ。もし20トンも獲れれば我々は幸運だと[彼は]言っている。彼はそう言っているかもしれないが、私は彼が思っているようには思っていない。彼のクマの毛皮を見た。ところで彼は我々にいくつか不思議な話をした。彼が話した通りに私は以下に書き留めておこうと思う。

彼は「若い頃に私は金時計と十分なお金を持ってロンドンに住んでいた。ある夜、私はライシアム劇場[訳注4]にいてホルボーンにある私の下宿に戻りたいと思ったが、長い間、道に迷ってしまった」と言った。ようやく私は身なりの良い男を見つけてホルボーンへの道を尋ねて、この辺りのことを知らないと付け加えた。彼は、自分もちょうどその方向に行くつもりだと言って、第17槍騎兵連隊のバートン大尉だと名乗った。我々は一緒に歩いた。バートン大尉はロンドン界隈でお金を持ち歩く危険性について話して、私の時計とお金について知ると、それについて忠告した。その直後、我々は開いている店に入った。大尉は『ここで何を飲もうか。私はコニャックにする』と言った。私は『強いコーヒーがいい』と言った。物を持ってきた給仕はこれまで見たことがないほど恐ろしい見かけのごろつきだった。私は、奴が舌を出して大尉を横目で一瞥したのを見た。自分が罠にはまったのではないかと私は初めて疑った」と言った。

「私は10シリング金貨をカウンターに置くと、外に出ようと立ち上がったが、給仕が扉を背に立っていて『ろくなおもてなしもしていないのにお客さんを出て行かせるわけにはいかないな』と言った。大尉は『わかった。今夜は楽しむことにしよう。では3番の瓶からシェリー酒[訳注5]をくれ』と言った。給仕が『ジェネット』と呼ぶと、青ざめたかわいらしい少女が現れた。彼は『3番の瓶』と言った。少女は『でもあなたにはそんな物は必要ないわ』と言った。彼は『言われたとおりにするんだ』と言った。ワインを持ってくる時、彼女は『眠ったふりをして』と私に囁いた。私はワインをちょっとだけ飲んで大部分を捨ててしまった。それから私は沈み込んで目を閉じた。すぐに2人の悪党がやってきて互いに囁きあった。1人が私の目の上にろうそくを持ってきて『おやすみだ』と言った。それからしばらく彼らは再び囁いていたが、1人が『死人に口なし』と言った。もう1人が『寝床を準備しておいたほうがいいな』と言った。そして、2人とも部屋を去った。私は銃弾のように窓から通りに飛び出て、警官がいるところまで半マイル[0.8km]ほど走った。私の不完全なロンドンの知識ではその家を再び見つけることは不可能だと悟った。それ以来、私はそのことについて何も聞いていない。ポルト酒をもう1本持ってきてくれ、ドクター」

話の結末はなかなかの労作だ。彼は、ボーア人[訳注6]の密偵としてどのように活躍したかという話や就寝中の3人のカフィール人[訳注7]を殺した話、1人のドイツ人を撃ち殺した話などを我々に語った。

彼は、セイウチがイッカクを食べているのを見たことがある。彼はすばらしい男であり、ウォーカー医師も優れた男だ。彼は、夜よりも日中のほうがたくさんのクジラを見つけられると考えていて、 白夜の地に向かって北進した時、午後10時に朝食を摂って、朝2時に昼食を摂って、午前7時に夕食を摂った。それから彼は一日中眠った。彼は、クジラはとても特徴的な匂いを残すので姿を見る前からその匂いがわかると言っている。

訳注

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