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アゴスティーニ『恋するオルランド』5巻第5歌

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※約500年前のイタリア語原典の一部です。

あらすじ

馬を駆っていたマンドリカルドは森で道に迷う。森の中で1人の乙女に出会う。乙女は死馬を甦らせる。この乙女は仙女のドリエナの使いであった。ドリエナの導きによってマンドリカルドは「死の道」と呼ばれる城に至る。フェッラウ、ロドモンテ、グラダッソは不思議な冒険に巻き込まれる。冒険の後、3人が不思議な泉の水を飲むと獣や鳥の言葉が理解できるようになる。


マンドリカルドがどのようにして馬に乗ったのかはすでに語った。マンドリカルドは勇敢な騎士たちがそれぞれ平原を逃げて行くのを見た。ぐずぐずしても仕方ないのでマンドリカルドは道連れなしで出発した。そして冒険を求めて馬を駆っていると、暗い影なす森の中に迷い込んだ[V-5-2]。

マンドリカルドは邪魔な目庇を上げて深い藪を見通そうとした。小さな山羊でさえその藪に脚を踏み入れることができそうになかった。ほかに道が見つからなかったので、マンドリカルドは獅子や大蛇の巣窟になっている藪に仕方なく踏み込んだ。そして暗く険しい谷間を覆う藪の端に出ようとした[V-5-3]。

マンドリカルドは、投げ縄で[鳥の]爪を絡め取るように、もがく翼を打つように、嘴とうるさい鳴き声を抑えるように馬を脚で締め付けた。そのようにしていたせいで藪の端にたどり着いた時に痛みを覚えた。ただ冒険によって降りかかるあらゆる困難を克服することはマンドリカルドにとって喜びであった[V-5-4]。

馬の頭に岩が当たって粉々に割れてしまった。倒れるや否や大きな音が出て森に響きわたった。悲しみにさいなまれたマンドリカルドは、残酷な運命のせいで生気を失って地面に倒れている馬を見ながら「こいつがいればなんとかやっていけたのに」と言って嘆いた[V-5-5]。

このように嘆いていた時、恐ろしい大きな叫び声が聞こえてきた。まさかバジリスクではないかと思ってマンドリカルドは命の危機に備えて覚悟を決めた。マンドリカルドは声が断末魔のうめきだと思って、そのものに速やかに死が訪れることを願った[V-5-6]。

しかしまた音が聞こえてくると、マンドリカルドは盾を締めなおして棍棒を握った。勇敢にして大胆不敵な騎士はこのような危機に際して果断に富んでいた。山が開け、女神と見紛うばかりの人間とは思えぬほど美しく風変わりな女が姿を現した[V-5-7]。

女は騎士の前に進み出て一礼すると言った。「騎士よ、女王は汝の不運を見て哀れに思われました。汝のことを何よりも気にかけておられます。そこで山を開いて私を遣わし、汝を無事に連れてくるように命じられました。女王は私の主たるお方です。きっと汝は女王のこと以外すべてを忘れてしまえるでしょう」[V-5-8]。

「勇敢な者よ、汝は向こうの野原で死んでいる馬のせいで悲しんでいます。では女王が私に授けた貴重な軟膏を使って馬を甦らせましょう」。そう言うと乙女は(大切な騎士を喜ばせるために)頭を下げて一礼すると、軟膏を手に取り馬に塗って命を復活させた[V-5-9]。

騎士がメデューサの凝視で石に化した者のように驚きで固まってしまった(本当に仰天したのかどうかは想像にお任せしたい)のを見た乙女は目を上げて言った。「汝がどこへ足を運ぼうとも、私は汝の成し遂げた試練もここで言っていたこともよく知っています。だから私はあなたのことをすべて信じています」[V-5-9]。

[さらに]乙女は言った。「汝の成し遂げた試練は、私がもたらす試練に比べたらたいしたことはありません。揺り籠からここに導かれるまでの汝の試練を私は一つ一つ知っています[この部分は訳出が難しく、いくつかの版の原文を比較したうえで訳出している]。私のことを見てただの卑しい乙女だと思うような者は、私のこと、私の行動、私の主を信用しないほうが賢明です。いろいろ言っても仕方ないのでもう止めておきます」[V-5-10]。

「ただ汝に真実を知らせておくべきでしょう。ここで汝にそれを明かすことにします。汝が不毛の地を生きて抜け出したければ、まず女王の御前へ参るように。その後、私が森から出られる確かな道を汝に教えます。私の言うとおりにしなければ、汝はこの地から離れられません」[V-5-11]。

乙女がついてきてほしいと懇願したので、マンドリカルドは乙女の先に立って進みたいと思うほどであった。マホメット[ムハンマド、イスラム教の預言者]と折り合いをつけられなかったものの、マンドリカルドを縛っていた決意[キリスト教勢に敗北した屈辱を晴らすこと]は火の前に置かれた蝋のように柔らかくなり、太陽の下の氷のように溶けた。マンドリカルドは乙女に晴れやかな顔を向けて言った。「では成すべきことを成し遂げるとしよう」[V-5-11]。

こうして2人は延々と続く厳しく荒れ果てた道を通って大きな洞窟にたどり着いた。マンドリカルドが中に足を踏み入れると、突然、洞窟が閉じられた。入ることは簡単だったが、出ることは簡単ではなかった。岩壁が閉じて乙女とマンドリカルドは暗闇の中に残された[V-5-12]。

今日ほど不運な騎士の人生が悲惨になったことはない。マンドリカルドは心の中でつぶやいた。「ああ、なんとも情けなく悲しくみっともないことだ。死んでから悔いる者や運命を嘆いてばかりいる者は哀れなものだ。このような狭苦しい暗がりにいると、陽気に生きようなどとは思えなくなる」[V-5-13]。

その様子を見ていた乙女はマンドリカルドに甘美な笑顔を向けると言った。「恐れることはありません。汝は地獄に転げ落ちたと思っているかもしれませんが、これから天国に行くのですから」。微笑みながら乙女は、離れ離れになっていた騎士に右手を差し出した。遥か遠くまで歩くと、空と美しく輝く真新しい太陽が見えた[V-5-14]。

彼らは暗くおぞましい洞窟から出た。[たどり着いた先は]まさに悪が子供[putto、petroとする版もあるが、後ろにあるbomba、すなわち「子供の遊びで隠れる場所」との関係からputtoで訳出するのが適切だと考えられる]のように隠れ家に逃げ込み、あらゆる罪過が覆い隠され、小さな悲嘆の声でも響きわたり、あらゆる優れた魂が穏やかに宿るところであった。彼らは杉やオレンジの木にぐるりと囲まれた華やかな園に到着した[V-5-15]。

真新しい太陽があり、真新しい世界があり、澄んでいて穏やかで新鮮な空気があり、甘やかで静かで心地良い地があり、麗しく快適で優美で豊かな場所があり、百合や薔薇、菫の花が咲き乱れる場所がある。そして、この場所では爽やかなゼフィロス[西風の神、西から吹くそよ風]がフローラ[花と春と豊穣の女神]の膝下に息を吹きかけて恋に落ちる[V-5-16]。

鹿、穴兎、野兎、ノロジカなどあらゆる野生動物と家畜が草を食み、サヨナキドリが美しく朗らかな鳴き声で歌っている。燕が古めかしい音楽を甘やかに奏でている。ほかの小鳥たちは美しい声でさえずりながら楽しげに愛する巣に帰った[V-5-17]。

園の中央には宮殿があり、その壁は琥珀と水晶で覆われていた。彼らはゆっくりと歩いたが、すぐに宮殿に着いた。見よ、慎ましやかな顔をしながらも悪戯好きの心を持つ乙女たちが音楽と歌に合わせて踊っていたが、騎士のほうに目を向けた。そこにいた乙女たち全員が騎士の周りに集まった[V-5-18]。

ではマンドリカルドを仙女の前に導こう。開廊[leggia、主に中庭に面して開かれた柱廊]にある壮麗な装飾が施された玉座に黄金の衣をまとった仙女が座っていた。その姿を見ると、まさに冠を戴いた女王さながらであった。仙女があまりに美しかったので、仙女に宿る美しさをすべて言い表すことは到底できない。きちんと表現しようとすればもっとたくさん語らなければならないだろう[V-5-19]。

仙女の御前に出たマンドリカルドはすぐに跪いて堂々とした声で挨拶した。それに仙女は恭しく答えた。「では私の優美な愛しい人よ、こちらへいらっしゃい」。ろうたけた仙女は手慣れた感じでマンドリカルドに甘く優しい言葉で一緒に座るように誘った[V-5-20]。

この仙女はドリエナという名前の淫猥な魔女であった。ドリエナは言った。「このような幸福な情景の中でも苦難と試練のもとがあります。この根の汁を使えば望むままに誰でも甦らせたり死なせたりできます。生きているというよりかむしろ死んでいるような者は、苦悩して生きるくらいなら死んだほうがましでしょう」[V-5-21]。

そのように騎士に語ると、ドリエナはテーブルを準備するように命じた。見よ、楽しそうにお喋りしながら水を手に持ち、葡萄酒を配る乙女たちを。これまで見たことがないような豪華な宴が設えられた。大量の黄金の皿があったことから莫大な財宝があることは容易に想像できるだろう[V-5-22]。

食事が終わると、仙女とサラセン人はテーブルを離れ、すばらしい園を見て回るために嬉々として一緒に外に出た。日差しが強かったので仙女はマンドリカルドを美しい松の木の陰に誘った。緊迫した様子で大きなため息をつきながら仙女はマンドリカルドに試練について語り始めた[V-5-23]。

仙女は言った。「わが騎士よ、汝の勇気、汝の品性、汝の厚情はわが魂と心に響きました。だからこそほかならぬ汝を高く買っています。そこで不躾ですが、私のことを愛しいと思ってくれるのであれば、私の願いを聞いてほしいのです。愛のために奮闘して死ぬのは高潔な心を持つ者にとって当然のことです」[V-5-24]。

「私が汝をこれ以上ないほどに強く愛しているせいで、汝は私のもとを離れがたく思っているかもしれません。しかし、汝には[ほかにも]成し遂げるべき試練があると私はわかっています。もし私が汝をここに引き留めれば、汝は[ほかの]試練を達成できないこともわかっています。したがって、汝は[ずっと引き留められるのではないかと]余計な心配をすることはありません。私のもとに3日間だけ留まってくれればよいのです。その後、汝は自由にここを去り、無事に旅を続けられます」[V-5-25]。

仙女は歓喜とともに騎士にその身を預けた。それから2人は顔と顔、口と口、胸と胸を重ね合わせた。感性があり鈍感でなければ、彼らが腕を絡めて抱き合った時にどれほど強い喜びを感じたのか誰でも容易に想像できるだろう。愛の絆を知る者であれば、なおさら容易に想像できるはずだ[V-5-26]。

それほど遠くないところに泉があった。泉は人間の手で作られたものではなく、岩から水が湧き出ていた。幸いにも泉で休めた者は決して後悔することはなかった。泉から少し離れた者は、岩[にたまった水]の中で魚が戯れているのを見られたはずだ。この泉の中で楽しんだ後、2人とも裸のまま草の上に出た[V-5-27]。

杉、ミルト、オレンジの木、楡が泉の四方を囲んでいた。木々の枝には美しい鳥たちが止まっていて優雅な旋律を奏でていた。さまざまな大理石や艶やかな草花で泉が装飾されていると言い忘れていたことを私は残念かつ遺憾に思っている[V-5-28]。

太陽が向こう側に傾いて海に沈み、海原と広野を夕焼けで鮮やかに染めるまで2人は泉にいた。ツバクロはすでに飛び去り、サヨナキドリはかわいらしい葉の間で歌い出した。幸福な恋人たちは水の中から出ると、壮麗な宮殿で服を着た[V-5-29]。

堂々とした立派な入り口を通ると、広間にはすでにテーブルが設えられていた。乙女たちは、あらゆる悲痛を和らげられるような言葉でマンドリカルドを嬉々として励まし、旋律や歌などの音楽で苦悩にさいなまれた魂を慰めた。そこに天上の天使たちがいるかのようであった[V-5-30]。

食事の後、2人は象牙とサファイアでできた部屋に入った。その部屋には、絹のレースとみごとな技工が施された輝く黄金の寝台があった。2人は寝台に横たわった。乙女たちは戸口から出て行った。乙女たちが立ち去った後、2人が何をしたか私は知らないと言っておきたい[V-5-31]。

アウローラがさまよっているせいで太陽はまだ東の地平に顔を出していない。しかし、太陽はアウローラがいなくては海から出られず、息が上がってしまう[この部分は訳出が難しく、いくつかの版の原文を比較したうえで訳出している]。騎士が起床した時、小鳥たちはよく響く声で甘やかに歌っていた。他の者たちも同じく起床した[V-5-32]。

勇敢な騎士は、自分がいったいどこへ向かうのかよくわからないまま宮殿を出発した。試練の終わりに至る真っ直ぐな道を見つけられるのではないかと騎士は期待していた。しかし、そのようにはまったくならなかった。森の中で馬を駆っていたせいですっかり迷ってしまい、勇敢な騎士にとって不都合なことになった[V-5-33]。

悲喜こもごもに過去のことをいろいろと思い出しながらマンドリカルドは、不毛の地から完全に離れるまで休むことなく森や山、丘や草原を進んで行った。ようやく人が住む場所に出ると、「死の道」と呼ばれる城塞にたどり着いた[V-5-34]。

もしかつて聞いたことがない冒険を聞きたければ、少しだけ先を急がずに待ってほしい。アポロンの驚くべき功業はあらゆる詩人を飽き飽きさせるほどであり、その名声は[世界の]端から端まで東から西まで知られている。しかしながら、この試練はこれまでに語られたり書かれたりしたものの中で最も偉大な試練である[V-5-35]。

城塞は丘の上にあり、大理石の一枚岩から精巧に彫り出されていた。海を見下ろす城塞には小さな入口が一つだけあった。誰であれ城塞に自由に出入りしようとするなら翼が必要だろう[V-5-36]。

壮麗な城は広大な不毛の地から1ミッリョ離れた場所にあった。その見た目は甘くても味は苦くまずい。そして、いかがわしい愉楽に満ちているように見えて悲哀が待ち受けている。そのおぼろげな外観の下に慨嘆、苦痛、悲哀、困難、激情、災厄、不幸、懊悩、煩悶、虚偽、暴虐、欺瞞、幻滅がある[V-5-37]。

何も知らなかった騎士は試練を与えてくれたことをマホメットに感謝しながら城に向かって意気揚々と駆け上がった。そして城の扉を抜けて中に入った。中庭まで進むと、怒っている男の声がはっきりと聞こえた。四方を見回しても何もなかったのでマンドリカルドは不安と困惑を抱いた[V-5-38]。

中庭は暗くなっていて見えなかった。燃える砂と壁に囲まれていたからだ。それは恐ろしい光景だった。(身の毛もよだつものだが)マンドリカルドは「入った者はすべての希望を捨てよ」という文字が石に刻まれているのを見つけた[V-5-39]。

こうした言葉は騎士の心に強い恐怖を与えて騎士を考え込ませた。しかし、豪胆な騎士としてマンドリカルドは勇気を奮い立たせた。[広場の]中央に誰かが出てきて挑戦してくるに違いないと覚悟を決めた。マンドリカルドは、しばしば自分を絶望に陥れてきた運命に抗わざるを得なくなった[V-5-40]。

私は長々と語るべきではないだろうし、語りすぎてあなた方を辟易させるべきではないだろう(私にできることは特に何もないが、さらに話を続けないようにすることならできる)。あなた方に喜んでいただくために、この辺りで締めくくろう。私が望むよりも急いで話を進めることは、残念に思えるし、良心の呵責を感じるので、今のところはここでこの話から離れたい[V-5-41]。


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