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ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説9―A Winter's Ball 和訳


はじめに

ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。

物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。

劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。

"A Winter's Ball"

※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。

※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠。『Hamilton the Revolution』は歌詞だけではなく、オールカラーで劇中の写真が掲載されている。英語が読めない人でも眺めているだけで嬉しいファン・ブック。

BURR:

How does the bastard, orphan, son of a whore go on and on, Grow into more of a phenomenon? Watch this obnoxious, arrogant, loudmouth bother Be seated at the right hand of the father. Washington hires Hamilton right on sight. But Hamilton still wants to fight, not write. Now Hamilton’s skill with a quill is undeniable But what do we have in common? We’re reliable with the

「貧しくむさ苦しかった私生児、孤児、売女が躍進して非凡な者に成長しようとはどういうことだ。この頑固で横柄で偉そうに大口たたく奴を見ろよ。おやじの右腕におさまっているな。ワシントンはハミルトンをそばに置きたがっているが、ハミルトンは戦いたがっている。もう書類を書くのはごめんだとよ。ハミルトンの筆力はなかなかすごい。何か私達に共通点はあるかだって。ああ、我々は大いにもてるのさ」

解説:1777年3月1日、ハミルトンは副官としてワシントンの幕僚の1人に迎えられた。ワシントンは幕僚になった若い士官達と緊密な関係を持ち、それはまるで親子のような関係であった。その中でもワシントンとハミルトンの関係は特別であった。ハミルトンが重用されるのは、実はワシントンの隠し子だからではないかという風聞が後に流布されている。バーが「おやじ」と言って皮肉っているのはそうした事情が背景にある。

ハミルトンが本当に望んでいたのは最前線で戦って軍功を立てることであった。しかし、ハミルトンの高い事務能力を買っていたワシントンはなかなかハミルトンを手放そうとしなかった。もちろん野戦指揮官の空きポストがなかなかできなかったという事情もある。

ALL MEN:

Ladies!

「淑女達にね」

BURR:

There are so many to deflower.

「なんという多くの落花狼藉かな」

解説:ハミルトンがイライザと出会う前に何人かの女性と親しい関係があったことは確かである。ハミルトンとともに幕僚を務めたジェームズ・マッケンリーは、ハミルトンを「わが親愛なるハミー」と呼ぶ親しい仲だったが、ハミルトンがさまざまな女性達からたやすく好意を得る様子を見て羨望の念を抱いていた。

ただある夜、居酒屋に泊まった時に、そこにいた「かわいい乳搾り娘」が「からいばりのハミルトン」ではなく、ワシントンの親衛隊で鼓笛兵を務める少年に好意を示すのを見て驚いたとマッケンリーは書いている。

ALL MEN:

Ladies!

「淑女達よ」

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