ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説27―Take A Break 和訳
はじめに
ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。
物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。
劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。
”Take A Break”
※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。
※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠。
Eliza joins young Philip Hamilton at the piano.
ELIZA:
Un deux trois quatre Cinq six sept huit neuf. Good! Un deux trois quatre Cinq six sept huit neuf.
「1、2、3、4、5、6、7、8、9。いいわよ。1、2、3、4、5、6、7、8、9」
PHILIP HAMILTON:
Un deux trois quatre Cinq six sept huit neuf. Un deux trois quatre Cinq six sept huit neuf.
「1、2、3、4、5、6、7、8、9。1、2、3、4、5、6、7、8、9」
He sings the last three notes differently. Eliza corrects him, but he sings it his way.
ELIZA:
Sept huit neuf—Sept huit neuf—
「7、8、9—7、8、9—」
PHILIP:
Sept huit neuf—Sept huit neuf—
「7、8、9—7、8、9—」
ELIZA AND PHILIP:
One two three four five six seven eight nine!
「1、2、3、4、5、6、7、8、9」
In an adjacent room, Hamilton composes a letter.
HAMILTON:
My dearest, Angelica “Tomorrow and tomorrow and tomorrow Creeps in this petty pace from day to day.” I trust you’ll understand the reference to another Scottish tragedy without my having to name the play They think me Macbeth, and ambition is my folly. I’m a polymath, a pain in the ass, a massive pain. Madison is Banquo, Jefferson’s Macduff And Birnam Wood is Congress on its way to Dunsinane.
「わが最愛なる人、アンジェリカ、『明日、明日、明日と日々が少しずつ進む[訳注:マクベスの引用]』。わざわざ名前を挙げなくてもスコットランドの悲劇について言っているとわかるはず。私はマクベスだと思われている。そして、野心は私の愚行だと。私はいろいろと知っていていろいろと引っ掻き回す。本当にいろいろと。マディソンはバンクォー、ジェファソンはマクダフ、そして、連邦議会はダンシネインに向かう途中のバーナムの森だ」
解説:この部分はシェークスピアの『マクベス』を下敷きにしている。野心のために身を亡ぼすマクベスとハミルトンの人生が重ねられている。
バンクォーは「その子がスコットランドの王になる」という予言のためにマクベスに殺された。これはどのようにマディソンと関係しているのか。ハミルトンの財政政策を阻止しようとマディソンは下院で奮闘したが失敗して、一時期、政治的に死んだと言われた。しかし、後に民主共和派の領袖として政治の中枢を握って大統領になっている。
マクダフはマクベスを倒した貴族である。ワシントン政権で対立していたジェファソンは1800年の大統領選挙で勝利して大統領になった。それはハミルトンにとって政治的な死を意味する出来事であった。肉体的にハミルトンを殺したのはバーであるが、政治的にハミルトンを殺したのはジェファソンである。
「連邦議会はダンシネインに向かう途中のバーナムの森」という部分の解釈だが、ダンシネインはマクベスの居城があったと言われる丘である。魔女の予言によれば、「バーナムの森が動かない限りマクベスは敗れない」という。ハミルトンは連邦議会に大きな影響力を及ぼすことで諸政策を実現したが、しだいにその影響力を失って政治的な死に追い込まれることになる。
HAMILTON, ANGELICA:
And there you are, an ocean away Do you have to live an ocean away? Thoughts of you subside Then I get another letter I cannot put the notion away…
「君は海の向こうにいる。どうして君は海の向こうに住んでいるのか。君への思いを断ち切りたい。でもまた手紙を受け取ったら君のことが頭から離れない・・・」
Eliza enters.
ELIZA:
Take a break.
「ちょっと休憩したらいかが」
HAMILTON:
I am on my way.
「まだ途中なんだ」
ELIZA:
There’s a little surprise before supper And it cannot wait.
「夕食前にちょっとしたサプライズがあるわよ。お楽しみに」
HAMILTON:
I’ll be there in just a minute, save my plate.
「あともう少しで行くよ、私の分も残しておいてくれよ」
ELIZA:
Alexander—
「アレグザンダー」
HAMILTON:
Okay, okay—
「わかった、わかった」
ELIZA:
Your son is nine years old today. Has something he’d like to say He’s been practicing all day Philip, take it away—
「あなたの息子は今日、9才になりました。言いたいことがあるのよ。一日中、練習していたんだから。フィリップ、さあやってごらん」
PHILIP:
Daddy, daddy, look—My name is Philip I am a poet I wrote this poem just to show it. And I just turned nine. You can write rhymes but you can’t write mine.
「お父さん、お父さん、僕はフィリップ、詩人だよ。詩を書いたから披露するよ。僕は9才になったばかり。僕の詩よりも素敵な詩はきっと書けないよ」
HAMILTON:
What! Uh-huh! Okay! Bravo!
「よし、いいぞ、いいぞ」
PHILIP:
I practice French and play piano with my mother. I have a sister but I want a little brother. My daddy’s trying to start America’s bank. Un deux trois quatre cinq!
「僕はフランス語とピアノをお母さんと一緒に練習しているよ。僕には妹がいるけど、弟も欲しいな。お父さんはアメリカの銀行を始めようとしています。1、2、3、4、5」
解説:「アメリカの銀行」とは第1合衆国銀行のことである。
ハミルトンの自宅グレーンジにあるピアノ
※この当時はまだグレーンジは完成していない
ELIZA:
Take a break.
「ちょっと中断」
HAMILTON:
Hey, our kid is pretty great.
「ああ私たちの子供はなんてすごいんだろう」
ELIZA:
Run away with us for the summer. Let’s go upstate.
「夏はどんどん過ぎ去っているわ。ニュー・ヨークの北に行きましょうよ」
HAMILTON:
Eliza, I’ve got so much on my plate.
「イライザ、私にはやらないといけないことがたくさんある」
ELIZA:
We can all go stay with my father. There’s a lake I know…
「みんなで父のもとに行くのよ。湖があったでしょ・・・」
HAMILTON:
I know.
「知っているよ」
ELIZA:
In a nearby park.
「近くの公園にね」
HAMILTON:
I’d love to go.
「行きたいね」
ELIZA:
You and I can go when the night gets dark…
「暗くなる前にあなたと私で行きたいの」
HAMILTON:
I will try to get away.
「行けるかどうか何とかやってみるよ」
Fade up on Angelica. She is writhing a response to Hamilton's letter.
ANGELICA:
My dearest Alexander, You must get through to Jefferson Sit down with him and compromise. Don’t stop ‘til you agree Your fav’rite older sister, Angelica, reminds you There’s someone in your corner all the way across the sea. In a letter I received from you two weeks ago I noticed a comma in the middle of a phrase. It changed the meaning. Did you intend this? One stroke and you’ve consumed my waking days It says:
「わが親愛なるアレグザンダー、あなたはジェファソンとうまくやっていかないといけないわ。彼と一緒に座って折り合わないと。何とか折り合えるまで諦めちゃだめよ。あなたの親愛なる義姉アンジェリカはあなたに思い出させるわ。あなたが荒れ狂う海を行く時はいつでもそばに誰かがいるとね。2週間前に受け取った手紙で私は文の途中でコンマがあるのに気づいたわ。それはすごい違いよ。わざとやったの。たった一筆であなたは私を日々、やきもきさせたのよ」
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