アメリカ人の物語4 建国の父 ジョージ・ワシントン(上) 連載36号
※第1号から読む
深まる亀裂
ハミルトンが演説を披露した翌日、マディソンはニュー・ジャージー案に対する反論を開始する。まず現行制度を廃止するには諸邦の全会一致が必要であるというパターソンの意見を否定する。もしニュー・ジャージー案が通れば抜本的な改革が不可能になる恐れがある。何としてでもニュー・ジャージー案の採択を阻止しなければならない。諸邦が連邦政府の権限を侵害するという悪弊は、「最大の国家的な災厄」であり、「全体に混乱と破滅をもたらす」ものである。さらにマディソンの反論は続く。
ニュー・ジャージー案では諸邦の誤った行動を適切に抑制できず、内乱にもうまく対処できない。もし大邦が連合会議における投票方式に不満を持てば、連合会議の方針に従わなくなるだろう。その結果、連邦が崩壊すれば、小邦は大邦に併呑される恐れがある。それに諸邦議会が憲法案を批准するという提案も間違いである。人民が憲法案を批准すべきである。人民自身による批准を経て初めて連邦政府は人民に直接働きかけられるようになるからである。
議論の後、ヴァージニア案とニュー・ジャージー案のどちらを採択するか票決が実施された。ニュー・ジャージー案を支持していたコネティカットがヴァージニア案の支持に転向した一方、メリーランドは代表の間で意見が割れた。その結果、ヴァージニア案が採択され、その各条項の再検討が始まった。再検討は七月二日まで続くことになる。この期間はニュー・ジャージー案を諦めきれない者たちがヴァージニア案に関する不満を述べ、それに対してマディソンやハミルトン、ウィルソンなどが反論するという形になった。再検討の冒頭でウィルソンが自らの存念を述べた。
「新たなる旅立ちにおいて我々がどの方向に航行すべきか、そして、我々の旅の最終目的はどこになるのか考えたいと私は望んでいます。[中略]。諸邦政府を完全に廃止してしまうことは私にとって望ましい目的ではありません。その点において私はニュー・ヨークから来た誉れある紳士[アレグザンダー・ハミルトン]とは異なっています。すべての広大な帝国には権力の分割が必要です」
ウィルソンの指摘を受けたハミルトンが続いて発言する。
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