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ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説2―Aaron Burr, Sir 和訳
はじめに
ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。
物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。
劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。
”Aaron Burr, Sir”
※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。
※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠。『Hamilton the Revolution』は歌詞だけではなく、オールカラーで劇中の写真が掲載されている。英語が読めない人でも眺めているだけで嬉しいファン・ブック。
The lights change. Aaron Burr emerges. He is approached by Hamilton.
COMPANY:
Seventeen seventy-six. New York City.
「1776年、ニュー・ヨーク・シティ」
解説:西インド諸島からニュー・ヨークに渡ったハミルトンは、エリザベス・アカデミー(予備校のような学校)で勉学を積んだ後、キングズ・カレッジ(現コロンビア大学)に入学したが、在籍は二年余り。1776年2月にはニュー・ヨーク邦が結成した砲兵隊の隊長に就任して戦いに身を投じた。
そして、1776年夏、ジョージ・ワシントン率いる大陸軍とイギリス軍の間でニュー・ヨーク・シティをめぐる争奪戦が起きる。ハミルトンは砲兵隊の隊長として活躍している。諸説あるが、おそらくその頃にワシントンと出会ったと言われている。
大陸軍は善戦したものの、敗北を喫し、ニュー・ヨーク・シティはイギリス軍の手に落ちた。シティは終戦まで解放されなかった。
※独立戦争については折りに触れて解説を加えます。
HAMILTON:
Pardon me. Are you Aaron Burr, sir?
「すみません、あなたがアーロン・バーさんですか」
解説:実年齢はバーのほうが下。それでもハミルトンがバーを敬っているのは、バーが齢16歳にしてすでに学士号を取得していたからである。
ハミルトンとバーは、ニュー・ヨーク近郊に同時期に滞在したことがあり、数年前から顔見知りだった可能性がある。少なくともハミルトンは、有名人であるバーの名前を聞き知っていたはずだ。
BURR:
That depends. Who's asking?
「さあ、どうかな。ところで君は誰かな」
HAMILTON:
Oh well sure, sir. I'm Alexander Hamilton. I'm at your service, sir. I have been looking for you.
「それももっともですね。私はアレグザンダー・ハミルトン。何なりとお申し付けを。私はあなたをずっと探していたのです」
解説:ミランダによる注釈
もちろんこれはハミルトンとバーの架空の出会いである。私は明確にわかっている事実から考えた。バーは非常に若く早く大学を卒業した。バーがハミルトンに言っていないことがある。バーの父は大学の学長であったことだ。贔屓があったかもしれない。しかし、ハミルトンはそんなことを知らない。お金がなく時間を無駄にできないハミルトンは、ただバーが早く卒業したことを知っていてだけだ。
BURR:
I'm getting nervous.
「ぞくぞくするね」
HAMILTON:
Sir... I heard your name at Princeton. I was seeking an accelerated course of study when I got sort out of sorts with a buddy of yours. I may have punched him. It's a blur, sir. He handles the financials?
「私はあなたのお名前をプリンストンで聞きて、飛び級したいと申し出ましたが、あなたのお友達にはうんざりしました。奴をぶんなぐっておけばよかったかもしれません。確か奴は会計係だったような・・・」
解説:「Princeton」とは、プリンストン大学のことだが、当時はカレッジ・オブ・ニュー・ジャージーという名前であった。バーは十一歳でカレッジ・オブ・ニュー・ジャージーに入学しようとしたが、あまりに年齢が低すぎると拒絶され、十三歳で二年生に編入して16歳で卒業した。
ハミルトンもバーに倣おうとカレッジ・オブ・ニュー・ジャージーの学長と面談して飛び級を申し入れたが受け入れられなかった。
BURR:
You punched the bursar?
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