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アメリカ人の物語4 建国の父 ジョージ・ワシントン(上) 連載9号

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シェイズの反乱

ダニエル・シェイズ。もしシェイズの反乱という事件が起きなければ、その名前は歴史の陰に埋もれて誰も耳にする機会がなかったかもしれない。いったい彼はどんな男であり、何をしたのか。

シェイズはアイルランド移民の家に生まれた。その当時の貧しい家ではよくあるように、働ける年齢になるとシェイズは家を出て農作業を手伝いながら生計を立てた。シェイズは短躯ながらも強健な体に恵まれていた。そして、何よりも野心に溢れていた。稼ぎも悪くなかったらしい。西に移ったシェイズは街の有力者の娘と結婚して小さな農場を持つまでになった。

やがて独立戦争が勃発する。独立戦争はシェイズにとって名を上げるまたとない機会だった。なかなか巧妙な男だったらしい。多くの民兵を集めたシェイズはそれを手土産に大尉の階級を手に入れた。もちろん戦場でも活躍している。サーベルで切られて負った頬傷は一生、シェイズについて回った。

順風満帆の軍隊生活を送っていたシェイズであったが金回りはあまり良くなかった。ただそれはシェイズに限ったことではない。俸給を紙幣で受け取っていた兵士であれば誰にでも共有することであった。紙幣の価値が暴落して靴一足も買えないありさまだ。あまりに困窮したシェイズは、ラファイエットから拝領した剣を売り払ってしまい、士官たちから咎められた。ただ士官たちも咎められるような立場にいたわけではない。俸給が滞るのに耐えかねて軍を去る者が相次いだからだ。シェイズも軍に見切りをつけて自分の農園に帰った。

 一七八〇年、マサチューセッツ邦ではジョン・アダムズが起草した憲法をもとに新制度が発足した。なおマサチューセッツ邦憲法は、現在も機能している憲法の中で最も古い成文憲法と言われる。新制度のもと、邦議会は財政の立て直しのために税制を刷新した。マサチューセッツ邦は連合会議への拠出金を負担するだけではなく、自邦から大陸軍に派遣した部隊の維持費も賄わなければならない。公債の利子も支払わなければならない。財政基盤を強化しなければ邦は信用を失う。そこで人頭税、財産税、所得税などから構成される直接税が導入された。その総額はイギリス統治下の数倍に達したという。

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