ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説40―Blow Us All Away 和訳
はじめに
ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。
物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。
劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。
”Blow Us All Away”
※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。
※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠。
Philip Hamilton enters, now nineteen years old.
PHILIP:
Meet the latest graduate of King’s College! I prob’ly shouldn’t brag, but dag, I amaze and astonish! The scholars say I got the same virtuosity and brains as my pops! The ladies say my brain’s not where the resemblance stops! I’m only nineteen but my mind is older, Gotta be my own man, like my father, but bolder. I shoulder his legacy with pride, I used to hear him say That someday I would—
「キングズ・カレッジの最近の卒業生に出会った。私は自慢すべきじゃないかもしれないけど、でも驚きなんだ。私が父と同じくらいすばらしい才能を持っていると先生たちが言うんだから。淑女たちは私の頭脳が父とそっくりだと言っている。私はまだ19才だけど精神は大人びている。父のように独り立ちするぞ。でももっと大胆に。私は父の名声を誇りとともに担う。父が私に向かっていつも言っている。きっといつかおまえは・・・」
解説:フィリップはハミルトンと同じコロンビア大学(旧キングズ・カレッジ、1784年に改称)に入学して前年に卒業している。そして、父と同じく弁護士になるべく準備をしていた。フィリップは父親譲りの才能を持っていて将来を嘱望されていた。
ENSEMBLE:
Blow us all away.
「我々を凌駕するだろう」
Philip approaches two young women, Martha & Dolly.
PHILIP:
Ladies, I’m lookin for a Mr. George Eacker. Made a speech last week, our Fourth of July speaker. He disparaged my father’s legacy in front of a crowd. I can’t have that, I’m making my father proud.
「淑女たち、私はジョージ・エッカー氏を探している。先週、7月4日の独立記念日の演説をした人だ。彼は公衆の面前で父の名声を傷つけた。父を誇りに思っている私には我慢できないね」
解説:1801年7月4日、アメリカは独立宣言25周年を祝った。ジョージ・エッカーは祝典で演説を読み上げた。その中でエッカーは、アダムズ政権時代、フランスとの緊張が高まる中で創設された臨時軍に対する批判をおこなった。
当時、臨時軍のトップには、まだ存命中であったワシントンが据えられた。その時、臨時軍におけるハミルトンの序列に関して騒動が起きた。アダムズはハミルトンを上位に置くのを嫌がったが、ワシントンの要請に従った。結局、臨時軍の実務はハミルトンに委ねられた。そうした状況をエッカーは、ハミルトンが臨時軍を使って民主共和派を抑圧するために使おうとしていると非難した。
フィリップはエッカーの演説を直接聞いたわけではないが、新聞に掲載されたものを読んで父の名誉が傷つけられたと怒った。それが決闘の原因になった。
MARTHA:
I saw him just up Broadway a couple of blocks. He was goin’ to see a play.
「数ブロック先でブロードウェイを歩く彼を見ましたよ。お芝居を見に行く途中みたいです」
PHILIP:
Well, I’ll go visit his box.
「よし彼の座席にお邪魔しよう」
解説:チャーナウの『ハミルトン伝』では、1801年11月20日にフィリップが劇場でたまたまエッカーの姿を見たことになっている。
DOLLY:
God, you’re a fox.
「いいわね、あなたはなかなかやり手ね」
PHILIP:
And y’all look pretty good in ya’ frocks. How ‘bout when I get back, we all strip down to our socks?
「ドレスを着ているとなかなかすてきだね。私が戻ったらみんなで靴下を脱いでしまおうじゃないか」
BOTH:
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