ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説35―The Adams Administration 和訳
はじめに
ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。
物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。
劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。
”The Adams Administration”
※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。
※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠。
BURR:
How does Hamilton the short-tempered protean creator of the coast guard,
Founder of the New York Post Ardently abuse his cabinet post Destroy his reputation? Welcome folks, to
「沿岸警備隊とニュー・ヨーク・ポスト紙の創設者にして短気で変幻自在のハミルトンはどのようにして閣僚の地位を濫用して評判を落としたのか。さあ皆さん、ようこそ・・・」
BURR, COMPANY:
The Adam’s Administration!
「アダムズ政権へ」
BURR:
Jefferson’s the runner-up, which makes him the vice president
「ジェファソンは次点になって副大統領になった」
解説:1796年の大統領選挙でジェファソンは、ジョン・アダムズに次ぐ68票を獲得した。アダムズとは僅かに3票差で副大統領職への就任が決定した。当時の大統領選挙は現代の大統領選挙と制度が異なっており、大統領候補の中で得票数が次点になったものが副大統領に選ばれていた。したがって、連邦派のアダムズと民主共和派のジェファソンが正副大統領に選ばれるという事態が起きた。現在はそうした事態を避けるために正副大統領がセットで選ばれる仕組みになっている。
1796年の大統領選挙で68票を獲得したジェファソンであったが、それは予想以上の得票であったらしい。マディソンに向けてジェファソンは、「副大統領職は私が受けるか受けないか自分自身でまったく決めることができない職です」と述べている。また「私は人生においてアダムズよりも後輩です。議会においても後輩ですし、外交でも後輩ですし、我が国の文民政府においても後輩なのです」と語っている。さらにアダムズに向かっては12月28日に「私は決して大統領職を望んでいたわけではありません。私以上に純粋かつ公平無私にあなたを祝福する者はいないでしょう。私は人間を支配しようという野望はありません。それは苦痛に満ちた感謝されない職です。あなたの政権が栄光で満たされますように」と述べている。
ジェファソンは、アダムズを「ハミルトンの介入に対する唯一の確かな防壁となる」人物だと考えていた。惜しくも大統領の椅子は逃したものの、アダムズとの連携は次善の策として悪い策ではなかった。それ故、ジェファソンは副大統領職を辞退しなかった。とはいえ、副大統領職はジェファソンにとって「名誉であり簡単」であったが、「非常に苦痛」でもあった。一方でアダムズは政界に復帰したジェファソンについて「不思議なことはない。政治という植物は日陰でどれだけの成長を見せることか」と妻のアビゲイルに語っている。
JEFFERSON:
Washington can’t help you now, no more mister nice president.
「もうワシントンはおまえを助けてくれないぞ。もうおまえの素敵な大統領閣下はいないんだ」
BURR:
Adams fires Hamilton. Privately calls him creole bastard in his taunts.
「アダムズはハミルトンをお払い箱にした。こっそりとハミルトンを混血の私生児と嘲っていた」
解説:ハミルトンはワシントン政権期間中に財務長官を退任している。ただ後任の財務長官やその他のアダムズ政権の閣僚はハミルトンの強い影響下にあった。アダムズはそれを快く思っておらず、しばしば閣僚と衝突した。
JEFFERSON:
Say what!
「何と」
BURR:
Hamilton publishes his response.
「ハミルトンは反駁を発表した」
—CUT LYRICS—
HAMILTON:
An open letter to the fat Arrogant Anti-charismatic national embarrassment Known as President John Adams
「ジョン・アダムズ大統領として知られる太った横柄で嫉妬心丸出しの国民の厄介者への公開書簡」
BURR:
Shit
「何だよ」
HAMILTON:
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