ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説16―Meet Me Inside 和訳
はじめに
ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。
物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。
劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。
”Meet Me Inside”
※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。
※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠
解説:リーとローレンスの決闘について『アメリカ人の物語3』から抜粋を続ける。前半部分は15—Ten Duel Commandmentsを参照のこと。
ローレンスとリーは向き合って対峙する。両者の距離は互いに六歩しかない。ほぼ同時に銃口が火を噴く。両者とも倒れなかった。ローレンスがピストルに銃弾を再装填しようとした時、リーは負傷したと訴えた。3人がリーの身体を調べると、確かに右脇腹に擦過傷ができていた。
リーは決闘の続行を求めた。ローレンスも同じ意見である。しかし、ハミルトンはローレンスに万が一のことがあってはならないと思って口を挟んだ。決闘の目的は名誉を守ることであって相手の命を奪うことではない。
「もし[リー]将軍に個人的な怨恨がなければ、これ以上、事を荒立てるべきではありません」
リーの介添人もハミルトンの提案に同意した。名誉のために血が流されるか、どちらかが戦闘不能になれば幕引きである。結局、リーは介添人の説得に応じてワシントンに対する侮辱を撤回すると約束した。こうして初冬の決闘は終わった。
軍務停止期間が明けてもリーは復帰できなかった。大陸会議と衝突したせいで解任されたからだ。軍隊を去ったリーは、窓もない掘っ立て小屋にこもって愛犬たちの忠実な瞳を見ながら嘆く。
「人間をわが兄弟と呼べないのであれば、私はおまえ達のような動物になったほうがましだ」
さらにリーは、「この国に来てから私は生きている間、ずっと悪い奴に囲まれていたので、死んでからはそれが続かないように望む」と亡骸を教会以外に葬るように遺言書に記したという。そして、独立戦争の終結を見ずに亡くなった。最期の言葉は「わが勇敢なる擲弾兵よ、我とともに」であった。二頭の愛犬は、主人が埋められた場所からずっと離れようとしなかったという。
なぜリーは表舞台から追放されたのか。あまりに危険なナンバー・ツーだったからだ。そもそもリーの任命は、ワシントンの一存ではなく大陸会議による政治的任命であった。経験豊富な将軍として敬意を受けていたリーを無理に更迭すれば将軍たちの支持を失う恐れがあった。実際、ワシントンはイギリス軍から解放されたリーが戦線に復帰した時、手厚くもてなしている。ゲイツは警戒するほどの人物ではなかったが、リーはその影響力の大きさから放置しておくにはあまりに危険な存在であった。
確かにリーは優れた将軍とは言えなかったが、ワシントンという太陽の輝きに隠された真昼の星のような不運な人物である。秘かにイギリス軍と通じていたと指摘する者さえいる。ワシントンの行動を正当化したい人びとによってリーが汚名を着せられたと考える者も少なくない。
HAMILTON:
Lee, do you yield!
「リー、降参するように」
BURR:
You shot him in the side! Yes, he yields!
「脇腹を撃たれた。リーは降参する」
LAURENS:
I’m satisfied.
「私は満足だ」
解説:ローレンスはハミルトンに「[リーは]ワシントン将軍について最も下劣で最も侮辱的な言葉で個人的に口汚く罵った」と語っていたが、これでようやく腹の虫も収まったようである。
BURR:
Yo, we gotta clear the field!
「さあもう解散だ」
HAMILTON:
Go! We won.
「行こう。我々の勝ちだ」
COMPANY:
Here comes the general!
「将軍がお出ましだ」
BURR:
This should be fun.
「これは面白くなってきたぞ」
Washington enters.
解説:決闘の日は1778年12月23日、場所はフィラデルフィア郊外である。この頃、ワシントンは大陸会議と協議するためにフィラデルフィアのヘンリー・ローレンス邸に滞在していたので決闘の場にいなかったにせよ、耳にする機会はあっただろう。
WASHINGTON:
What is the meaning of this? Mr. Burr? Get a medic for the general.
「いったいこれはどういうことだ。バーよ。リーのために衛生兵を呼べ」
BURR:
Yes, sir.
「わかりました」
WASHINGTON:
Lee, you will never agree with me, but believe me. These young men don’t speak for me. Thank you for your service.
「リー、君と私は意見を違えていたが、私を信じてほしい。この若者達は私を代弁しているわけではないのだ。君の貢献に感謝している」
BURR:
Let’s ride!
「さあ行きましょう」
WASHINGTON:
Hamilton!
「ハミルトン」
HAMILTON:
Sir!
「はい」
WASHINGTON:
Meet me inside.
「私の気持ちを察してくれ」
COMPANY:
Meet 'im inside! Meet 'im inside! Meet 'im inside, meet 'im, meet 'im inside!
「彼の気持ちを察しよう。彼の気持ちを察しよう。彼の気持ちを察しよう。彼の気持ちを察しよう」
Washington & Hamilton, alone.
WASHINGTON:
Son—
「息子よ・・・」
HAMILTON:
Don’t call me son.
「私を息子と呼ばないでください」
WASHINGTON:
This war is hard enough without infighting—
「激しい戦争の最中に内輪揉めなどしている余裕はない」
HAMILTON:
Lee called you out. We called his bluff.
「リーはあなたを非難していました。我々は彼の化けの皮を剥がしただけです」
WASHINGTON:
You solve nothing, you aggravate our allies to the south.
「君は何も解決していない。南部に向かった我々の仲間の状況を悪くしてしまうぞ」
解説:ヨークタウンの戦いが始まる前、ラファイエットは一隊を率いて南部に転戦している。
HAMILTON:
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