ハンティントン伯ロバートの凋落―第一二幕
【王冠を戴いたジョン王子、エレノアールール王太后、チェスター、ソールズベリー、修道院長が登場。全員着席。ウォーマンは立っている】
ジョン王子:神の代理人としてジョンは王座に登極する。イングランドの王冠でその頭は覆われる。その手には荘厳なる王笏があり、謙譲なる者に高き場所を与え、高慢なる者を低き地面に投げ落とす。
王太后:王国の誰もがそのような正しい統治を認めるでしょう。
ジョン王子:チェスター、おまえはかつてイーリーの司祭の友人であったな。イーリーの司祭を個人的なあやまち[イーリーの司祭が女装していたこと]で公廷で裁くべきかどうか私は悩んでいる。
チェスター:猊下のような方を個人的なあやまちで罰することで公衆の面前で恥をかかせることが適切かどうか私も悩んでいます。
修道院長:そうか、チェスターよ。貧しい者たちに懲罰を下すよりも、大きな力を持つ者たちの罪を明らかにしたり、彼らの些細な欠点やあやまちを厳しく糾弾するほうが適切なことではないか。もし貧しい男が死んだり辱められたりしても、貧しく卑しい者たちがその者を気にかけるだけだろう。しかし、もし力の強い者が凋落すれば、その者と同じく力の強い者たちの心に恐怖を植え付けることになる。彼らは、彼らの地位を脅かす網や罠が世界に仕掛けられていると思うだろう。そのような恐怖によって彼らは悪意を恐れることになって、意に反しながらも善良であるように努めるだろう。
ジョン王子:そのとおりだ。ソールズベリー卿、イーリーの司祭に関しておまえは我々と同じように思っていないのではないか。
ソールズベリー:私は彼が譴責と恥辱に値すると判断しています。
ジョン王子:ウォーマン、おまえの囚人であるイーリーの司祭にして大法官を前へ。それと奴が持っていた国璽を持って来い。ウォーマン、なぜ行かないのだ。
ウォーマン:私にお情けを、わが主君。
ジョン王子:いったいおまえは何をしたのだ。
ウォーマン:私のために弁明してください、修道院長猊下。貴族さまたちも私のためにお慈悲を乞うてください。わが主君、イーリーは・・・。
ジョン王子:イーリーの司祭はいったいどこだ、ウォーマン。
ウォーマン:今日、逃げました。霧深い今朝、逃げ去りました。
ジョン王子:ああ、このユダめ。おまえのことなど敵も味方も誰も信用しないだろう。おまえは涙にくれて嘆きながら答えようと思っていたのか。おまえの心情を私に理解せよとでも言うのか。イーリーの司祭が逃げるために賄賂を使ったことを私が知らないとでも言うのか。おかしな顔をするな。慎ましいふりをして膝を屈するな。おまえの運命がどうなるかしっかりと見ていろ。悪党め。私を騙すとは何と忌まわしい奴だ。立ち去れ。屋内であろうが屋外であろうが、今日、おまえが立ち寄った場所に今後、決して足を踏み入れるな。私の言うことに注意を払え。よう気をつけるように忠告する。さもなければおまえは救いなしで死ぬことになるだろう。おまえがこの屋敷に迎え入れられているのを見たくない。1刻でもおまえを留めておくのはうんざりだ。どことなりへと行ってしまえ。友人を頼ればよかろう。ただおまえに食事を与える者は私の敵だ。
ウォーマン:ああ、わが主君よ。
ジョン王子:おまえの善良な主君は騙されたのだ。おまえはお金のためであれば全世界でも売ってしまうのだろう。
ウォーマン:王太后さま、何かおっしゃってくださいませんか。
王太后:では言わせてもらいます。主君を裏切るような者は誰でも裏切るでしょうね。
ウォーマン:チェスター閣下にソールズベリー閣下。
両人:我々には話すことがない。我々はあらゆる反逆者を許さない。
ウォーマン:修道院長猊下。
修道院長:ああ、私に何ができる。
ウォーマン:では私は憂き世を捨てるしかありません。ただ殿下にこの嘆願書を読んでいただきたいのです。
【ジョンが読む】
ジョン:私はよく検討した。しかし、ウォーマンよ、情けを乞えるような感動的な文章がここに一つでもあると思うのか。私はおまえに否と伝えよう。去れ、去るがよい。これ以上、ぐずぐずしていれば恥ずべき死だ。
ウォーマン:ああ、私は何と哀れな男だろう。私は最も惨めな奴だ。【退場】
ジョン王子:混乱が奴の導き手になるように。大地も卑しい奴隷にうんざりするだろう。奴に悪疫が降りかからんことを。ヨーク大司教[イングランドでは6世紀末に最初にカンタベリーに大司教座が置かれた。続いて7世紀前半にヨークにも大司教座が置かれた。当初、カンタベリー大司教とヨーク大司教の間に序列はなかったが11世紀後半にカンタベリー大司教が上位だと認められた。したがってヨーク大司教はイングランドの教会組織で二番目に位置する高位聖職者である]が耄碌していないか誰かわかる者はいないか。
王太后:大司教猊下は今でもしっかりされていますよ、息子よ。
ソールズベリー:もし何か臨席が必要な重大事があれば、殿下が自分のもとに私を派遣してほしいと猊下は望んでいました。
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