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『悲劇―タメルラン大帝』第3幕

イスペイシア:私が夫をしっかりと掴んでいようとすればするほど、まるで水が引くように夫は離れてしまった。ああ、なんという運命なのかしら。妻という妻が溌剌と喜びを享受し、乙女という乙女が無垢な歓喜に酔いしれて幸せな日々を過ごしているというのに。勝利を望んでいた者たちは私を除いて誰もが幸せになっている。誇り高きタタールが授け得るあらゆる栄誉をマンドリカルドが帯びているというのに。いかに栄光を吹聴しようとも、この偉大にして栄誉ある男が奴隷によって束縛され、捕らえられた端女の虜になってしまったと私は恥ずかしくも言わなければならない。でもきっと私は夫が言ったことを誤解しているだけに違いない。夫は私を試しているだけであり、夫の行動を見ていろいろと目がくらんでいるだけに違いない。夫が眉をひそめていると私が思っても、実はそうではないのかもしれない。哀れな女はどうしても嫉妬を抱いてしまうものだから。女は夢想したり妄想したり、いろいろと推測したりする。では私の運命を静かに試してみましょう。[手紙を取り出す]。あの女の字をしっかりと読み取ればあらゆる字をうまく真似られる。アーセイニーズでもだませるわ。アーセイニーズが見ても偽物だとは気づかないはず。ぐずぐずしていられないわ。忠実なる奴隷のハムゼはいずこに。

[中略:召使いのハムゼがイスペイシアのもとにやって来て偽物の手紙を預かってマンドリカルドに届けに行く。その後、宮殿に場面が移る。オドマーとアブダラはアーセイニーズが王位を簒奪しようとしているとタメルランに讒言を吹き込む。そこでタメルランはアーセイニーズを呼んで真偽を確かめることにした。宮殿にアーセイニーズが登場して身の潔白を訴える。釈明を受け入れたタメルランは、忠誠に報いようと何でも願いを言うようにアーセイニーズに求める。そこでアーセイニーズはアスティリアを妻にしたいと申し出る。タメルランは第1幕でマンドリカルドがアスティリアを褒美として望んだ時と同じく、アーセイニーズの申し出を峻拒して退場する。父王の言葉に困惑するアーセイニーズのもとに喜びに溢れたアスティリアがやって来ると、父のバヤジットから結婚の許しが得られたと告げる。そこへ侍女のゼイダがやって来てバヤジットが屈辱に耐えきれなくなって自ら死を選んだという知らせをもたらす。運命の暗転を嘆きながらアーセイニーズとアスティリアが去る]

手紙を持ったマンドリカルドが独りで入場する。

マンドリカルド:私はどうするべきか。さて読まずにおくべきか。今は止めておこうか。あの娘の真の思いが私の喜びに溢れた魂に示されるのであれば、天使たちにどう感謝すればよいのだ(偉大なるマンドリカルドと私は何度でも汝に歌おう)。

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