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アメリカの公共図書館:フィラデルフィア図書館協会

フィラデルフィア図書館協会は、一七三一年にフランクリンの提唱で設立された組織である。五〇人がそれぞれ四〇シリング(二万四、〇〇〇円相当)を最初に出資して、以後、一年に一〇シリング(六、〇〇〇円相当)を支払うことに同意した。当時、書籍は非常に高価であった。アメリカは文化においても技術においても後進国であり、歴史、紀行、演劇、科学などを扱った書籍はヨーロッパから輸入するしかなかったからだ。協会員の自宅の一室から始まった小さな図書館は順調に拡大した。収蔵されていたのは書籍だけではない。化石や古代ローマのコイン、標本など多岐にわたる。エジプトの王女の手のミイラなる珍妙なものもあった。一七七〇年には蔵書数が二、〇〇〇冊を越えた。フランクリンは次のように図書館の意義を語っている。

図書館はアメリカ人の会話全般を改善し、普通の商人や農夫を他国の紳士たちと同じくらい知的にし、おそらく全植民地の権利を守るために役立つだろう。

図書館の会員の中には女性も含まれていた。その当時、学問に勤しむ女性は「ペティコートを着た博士」と揶揶揄されることもあったが、フィラデルフィアでは事情が少し異なっていた。フィラデルフィアには、平等を信条とし、女性の教育にも積極的なクエーカー派が多く住んでいたからだ。

カトラーが訪問した頃、図書館はカーペンターズ・ホールの一角に間借りしていた。カトラーの目に移った図書館はどのような様子だったのか。

図書館には大規模ですばらしい蔵書があり、今や大学と街の公共図書館になっている。私が耳にしたことがある有名な近代の著者の作品を見ることができ、毎年、多くの蔵書が加えられている。書籍はよく整理されているように見えた。書架は網戸で閉じられていたが、網目が大きかったので幸いにも書籍の題名を確認できた。しかし、図書館員に扉を開けてもらわなければ、書籍を取り出せなかった。図書館員に無断で書籍を持ち出す者がいないようにするための安全策であった。

それから宿に帰ったカトラーは、荷物を詰め直して翌朝六時半にフィラデルフィアを発った。短期間の滞在であったが、憲法制定会議の開催中のフィラデルフィアについてカトラーが残した記録は貴重である。

『アメリカ人の物語4 建国の父 ジョージ・ワシントン(上)』予定稿より抜粋

既刊は『アメリカ人の物語3 革命の剣 ジョージ・ワシントン(下)』は全国書店で発売中。

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