アメリカ人の物語4 建国の父 ジョージ・ワシントン(上) 連載15号
※連載1号から読む
宣誓式
一七八九年年四月三〇日木曜日。七月四日の独立記念日と九月一七日の憲法制定記念日に続いてアメリカ人に新たな記念日ができた。その日、ワシントンが初代大統領として新しく生まれたばかりの国家を導くことを誓った。マックレイによれば「偉大で重要な日」である。
一世一代の出来事を一目見ようと全土から人々がニュー・ヨークに殺到する。ホテルや下宿屋は旅行者で満員となり、個人の家でさえ押し掛けた客人の対応に追われる。ボストンから来た女性は、いかにニュー・ヨーク市内で宿を確保するのが大変であったかを長々と友人に説明している。そして、次のように手紙を締め括っている。
私は彼を見ました。彼が街に到着していたとはまったく知りませんでしたが、私は見てすぐにそれがワシントン将軍だとわかりました。彼のように偉大で高貴に見える人物を私は見たことがありません。もしできることなら私は彼の前に跪いてこの国のために彼がおこなうすべての善について感謝を捧げたいのです。
夜もすがらキングス橋を渡った旅人が北からニュー・ヨークの街に流れ込み、桟橋ではあらゆる方面から来た船が入れ替わり立ち替わり乗客を降ろしている。地平線の向こうには雲の塊が見える。不吉な全長ではないかと危惧する者がいる。まるでそうした不安を打ち消すかのように街中の教会の鐘が朗々と打ち鳴らされる。教会は神の恩寵を祈願するために人びとに参集を呼び掛けている。午前九時、ニュー・ヨーク市内のあらゆる教会に人びとが会して神聖な祈りを捧げる。まるでそれを祝福するかのように太陽が赫々と教会の尖塔を染め始めた。
上院では、どのように儀式を執りおこなうか直前になっても議論が続いていた。副大統領として上院議長を務めるジョン・アダムズは、ついに我慢しきれずに議員たちに問い掛ける。
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