アメリカ人の物語4 建国の父 ジョージ・ワシントン(上) 連載33号
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ニュー・ジャージー案の登場
六月九日、ニュー・ジャージ代表のウィリアム・パターソンは、連邦議会の議席配分について検討すべきだと訴えた。紆余曲折を経て諸邦議員による上院議員の選出と人民による下院議員の選出が決定したことは先述の通りである。では各邦に何を基準にしてどれだけの数の議席を割り振るべきか。この問題を解決しなければ前に進むことはできない。ニュー・ジャージー代表のデイヴィッド・ブリアリーが小邦の見解を述べる。
「議席配分の問題について考えると非常に残念な気持ちになります。連合規約を起草する際にその問題は連合会議で物議を醸して、主権を持つ各邦がそれぞれ一票を持つことで解決されました。そうしなければ小邦は救済されるどころか、破滅させられたに違いありません。議席配分の変更は一見すると公正かもしれません。しかし、仔細に検討してみると不公正です。[中略]。三つの大邦と十の小邦があります。マサチューセッツ、ペンシルヴェニア、そして、ヴァージニアのような大邦は小邦を無視してすべてを制してしまうでしょう。そのような議席配分は自壊するか、専制政治に陥るでしょう。[中略]。連邦政府に活力と安定性を与えたいと考えて私はこの会議に出席しました。平等な投票権を破棄するような提案に驚きと不安を感じています。[中略]。ただ各邦に平等に一票ずつ与える連合会議の規則が不公平であることは認めます。ではどうすれば救済できるのでしょうか。救済策は一つしかありません。合衆国の地図を広げて、すべての境界線を消去して、十三の均等な部分になるように全体を新たに分割すればよいのです」
続けて同じニュー・ジャージー代表のウィリアム・パターソンがブリアリーの論を補強する。
「比率にもとづいた議席配分は小邦の存在にとって打撃となります。しかしながら、議席配分の問題を検討する前にこの会議が持つ権限の本質について言及したいと思います。[中略]。我々は統合国家を樹立できるのでしょうか。私はまったくそうではないと信じています。連邦政府とまったく異なる統合国家的な政府という発想は、誰の念頭にも浮かばなかった発想であり、我々は人心に配慮しなければなりません。我々には現行の連邦制度を超える制度を樹立する権限はありません。もし我々がそうしたとしても人民にそれを受け入れる準備ができていません。我々は人民の意思に従わなければなりません。[中略]。独立した主権を持つ十三邦の代表として連邦政府を樹立する目的で我々はここに集っています。現行の連合規約が依拠する原理は、各邦が連合会議で平等な票を持つという原理です。我々は諸邦の主権を統合して一つの国家を樹立するだけではなく、別の目的で我々をここに送り出した諸邦の主権を廃止できるのでしょうか。[中略]。小邦は議席の比例配分に決して同意しません。もし諸邦が存続したままで連邦を形成するのであれば、諸邦は平等な存在として扱われなければなりません。[中略]。より多くの拠出金を支払う大邦が少ない拠出金しか支払っていない小邦よりも多くの票数を持つべきだという論理は、豊かな市民が貧しい市民よりも多くの票数を持つべきだという論理と同じく非合理的です。[中略]。大邦にその大きさに準じて影響力を与えれば、その結果はどうなるでしょうか。大邦の野心は肥大するばかりで、小邦はすべてを恐れるようになるでしょう。[中略]。ニュー・ジャージー邦は、ヴァージニア案にもとづく連邦に決して加盟しません。もし連邦に加わればニュー・ジャージー邦は吞み込まれてしまうでしょう。そのような運命を甘受するくらいであれば、君主や独裁者に屈服したほうがましです。すなわち、連合規約に従って主権を持つ各邦がそれぞれ平等な票数を持つか、それとも自由の終焉か。この会議でヴァージニア案に反対するだけではなく、帰郷してそれを廃絶するために全力を尽くすつもりです」
激越なパターソンの言葉にウィルソンが答える。
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