ロビン・フッドの武勲②
第一篇から続く
第二篇
ようやく旅に出た騎士は、ことがうまく運びそうだと思った。バースデールの方角を見るたびに騎士はロビン・フッドのために祈りを捧げた。
さらにバースデールに思いを馳せながら騎士は、スカーロック、マッチ、そしてジョンなどこれまでに出会った最高の者たちのために祈りを捧げた。
高貴な騎士はリトル・ジョンに向かって話した。騎士は「明日までに私はヨークの町に行って聖マリア修道院にたどりつかなければならない」と言い始めた。
「私はその場所にいる修道院長に400ポンドを支払わなければならない。もし私がその晩までにそこにつけなければ、私の土地は永久に失われてしまう」
修道院長は聖職者一同の前に立って言った。「12ヶ月前のこの日、1人の騎士がやって来て400ポンドを借りた」
「騎士は土地と財産をすべて抵当にして400ポンドを借りた。もし騎士が同じ日までに来なかったら抵当を取り戻す権利を失うことになるだろう」
修道院副長は「まだ早朝です。夜が明けてそれほど経っていません。すぐにまた横になれるなら100ポンド払ってもよいくらいです」と言った。
「騎士ははるか海の向こうにいるかもしれません。イングランドの大義のために飢えと寒さに耐えながら多くの惨めな夜を過ごしているかもしれません」
「そのような事情があるのに騎士の土地を取り上げたらとても気の毒なことでしょう」と修道院副長は言った。「あなたは良心を軽んじられるのか。あなたは騎士にひどく不正なことをしているのではないか」
「あなたは私の邪魔ばかりする」と修道院長は言った。「神と聖リチャードにかけてもよい」と言いながら頭の鈍い貯蔵庫の管理係が入って来た。
「騎士は死んだか縛り首になっていますよ」とその修道士が言った。「私の罪を大いなる犠牲で償ってくださったキリストにかけてもかまいません。それで我々はこの場所で1年に400ポンドの費用が必要です」
修道院長と貯蔵庫の管理係は大胆な処置を取った。修道院長はイングランドの高等法官[原文はThe High Justyce of Englondeだが、中世においてそれに相当する役職は存在しない]を顧問にしていた。
高等法官とそのほかの者たちが騎士の負債をそっくり手中に収めて騎士を貶めようとしていた。
彼らは騎士に厳しい判定を下した。修道院長と仲間たちは「もし騎士がこの同じ日に来なければ、財産を失うことになる」と言った。
「騎士はきっと来ないだろうと私は確信している」と高等法官は言った。しかし、彼ら全員にとって都合が悪いことに、騎士が門の前にやって来た。
それから高貴な騎士は一行に向かって言った。「さあ海の向こうから持って来た粗末な服を身に着けよ」
彼らは粗末な服を身に着けた。そしてすぐに門の前に出た。門番は何の面倒もなく彼らを一人ひとり歓迎した。
「ようこそ、騎士さま」と門番は言った。「私の主人は食事中です。実はたくさんの高貴な方々も食事中です」
騎士の馬を見た時、門番は強く誓った。「私がこれまで見たことがある馬の中で最も壮健な馬です」
「馬を厩舎に連れて行ってください」と門番は言った。「厩舎で馬を休ませてください」。「馬を厩舎に入れたくない。私はあなた方の厩舎が気に入らぬ」と騎士は言った。
貴族たちは修道院の会館で食事中であった。騎士は進み出て跪いて身分の高低を問わずに一同に向かって挨拶した。
「ごきげんよう、修道院長殿」と騎士は言った。「私は日限を守りました」。修道院長が最初に口にした言葉は「私に支払うお金を持って来たのか」であった。
「1ペニーもない」と騎士は言った。「まことにどうしようもなかったのだ」。「おまえはずぼらな債務者だ」と修道院長は言った。「法官殿、私のために祝杯をあげていただけないか」
「支払うべきお金を持って来なかったのに、おまえはここへ何をしに来たのだ」と修道院長は言った。「どうか日限を延期していただきたい」と騎士は言った。
「おまえの日限は過ぎている」と高等法官は言った。「一片たりとも土地を返すことはできない」。「善良なる法官殿、どうか私の味方になっていただけないか。そして私を敵から守ってほしい」
「私は修道院長の顧問であり、礼服も礼金も受け取っている」と高等法官は言った。「では善良なる代官殿、どうか私の味方になっていただけないか」。「神にかけて断る」と代官は言った。
「ならば善良なる修道院長殿、どうか厚情をもって私の味方になっていただけないか。そして私が完済するまで土地を預かっていてほしい」
「そうすれば私はあなたの真のしもべになって忠実に仕えよう。私があなたに出所が確かな400ポンドのお金を返すまで」
修道院長は強く断言した。「十字架の上で亡くなったキリストにかけて、おまえは好きな所で土地を得るがよい。私の土地はいっさいおまえにはやらぬ」
「万物の創造主である敬愛すべき神にかけて、もし私が土地を取り戻せなければ、誰かがその報いを受けることになるぞ」と騎士は言った。
「処女より生まれしキリストよ、我々がうまくいくようにしてください。ある者に助けを求められる前に味方かどうか試しておくことは良いことだ」
修道院長は苦い顔を騎士に向けて口汚く呼びかけた。「出て行け」と修道院長は言った。「おまえは偽物の騎士だ。私の会館から出て失せよ」
「その会館において修道院長が罵言を吐くとは」と高貴な騎士は言った。「私は偽物の騎士ではない。万物の創造主である神にかけて」
高貴な騎士は立ち上がって修道院長に向かって言った。「このように長く騎士を跪かせたままにするとは。礼節を知らぬのか」
「馬上槍試合を私はきわめたばかりではなく、私が知る限り誰にも劣らず一騎打ちの騒擾の中に身を置いてきた」
「もし騎士が明け渡し状を書いたら、あなたはさらにいくら払ってやれるのか」と高等法官が言った。「さもないとあなたは安全に土地を持っていられないと私は断言する」
「100ポンドなら」と修道院長は言った。高等法官は「200ポンドを騎士殿に渡してはどうか」。「神にかけて断る」と騎士は言った。「たとえそうしてもらってもおまえに土地は渡さない」
「たとえおまえがさらに1,000ポンド支払おうとも、うまくいかない。修道院長であろうが、法官であろうが、修道士であろうが、私の土地の相続人にしない」
騎士は円卓に向かって身を前進させた。そして騎士は袋から400ポンドを振り出した。
「さあおまえのお金だ、修道院長殿」と騎士は言った。「おまえが私に貸していたものだ。もし私が来た時に礼儀正しく迎えていれば、謝礼を差し上げていたのだが」
じっと座った修道院長は、王のためのご馳走にもかかわらず一口も食べなくなった。修道院長は頭を傾けてじっと目を見張った。
「私があなたに貢いだお金を返してほしい、法官殿」と修道院長は言った。「1ペニーも返さない。十字架で亡くなったキリストにかけても」と法官は言った。
「修道院長殿と法官の方々、私は期限を守ったということになる。どのような口実があろうとも私の土地を返してもらう」
騎士は扉から飛び出た。騎士は外に置いておいた上質な服に着替えてうらぶれた様子を一変させた。
騎士は、昔話によく語られているような楽しそうな感じで歌いながら前進した。「ヴェリーズデール[Wierysdaleはランカスター州にある森、もしくはウェールズ南西部のKidwellyかAyredaleすなわちAiredale(イングランド北部を流れるエア川)と考えられている]」のわが家の門の前で奥方が騎士を迎えた。
「お帰りなさいませ、ご主人さま」と奥方は言った。「財産はすっかり亡くなってしまったのですか」。「喜べ、妻よ」と騎士は言った。「ロビン・フッドのために祈りを捧げてくれ」
「ロビンの魂にずっと祝福があるようにな。ロビンが私を苦境から救ってくれたのだ。もしロビンの助けがなければ、我々は乞食になっているところだ」
「修道院長と私は合意に至った。修道院長は支払いを受けた。道中でたまたま遭遇した善良なる自由民が私にそのお金を貸してくれた」
それからこの騎士は家政を整えた。やがて騎士は400ポンドを返す準備をすべて終えた。
騎士はぴんと弦が張った100張の弓を用意した。それにぴかぴかにやじりを磨いた良い矢を24本ずつ束ねて100束。
すべての矢は1エル[114cmに相当する]の長さで孔雀の羽がつけられていた。すべてに白銀の矢筈がついていて壮観だった。
騎士は100人の家来たちを集めて居城で十分に武装させた。騎士自身は同じような装いで白と赤で身を固めた。
騎士は投げ槍を手に持ち、荷物を運ぶ男をともなって、軽やかに歌いながら馬に乗ってバーンズデールに向かった。
騎士がある橋のたもとまでやって来た時、レスリングがおこなわれていた。騎士はそこで立ち止まった。そこには、西方で最も優れた自由民たちが集まっていた。
実にみごとな懸賞がかけられていてた。白い雄牛とぴかぴかに金具が磨かれた鞍と馬勒がついた壮健な馬が懸賞品になっていた。
本当に手袋1対、純金の指輪1つ、ワイン1樽もあった。最善を尽くした者がすべての懸賞品をきっと獲得することになるだろう。
その場には1人の自由民がいて、とても優れた腕前だった。誰も見知らぬ余所者であり、殺されそうになっていた。
騎士はその自由民を哀れに思って、ロビン・フッドの栄誉のために危害を加えないようにしてほしいと即座に言った。
騎士はその場に割って入った。100人の家来たちも騎士のあとに一斉に続いて、一団を懲らしめようと弓を張って鋭い矢をつがえた。
家来たちは、騎士が何を言うか知るために一団を押しのけて騎士のために道を空けた。騎士は自由民の手を取ってすべての懸賞品を与えた。
騎士は、地面の上に置かれてあるワインの代金として自由民に5マルク[3と3分の2ポンドに相当する]を与えた。そして誰でも好きなように飲めるように樽を開けるように命じた。
こうしてこの高貴な騎士はお楽しみが終わるまで長く滞在した。それがあまりに長かったのでロビンは正午から3時間も食事をせずに待つことになった。
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