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アメリカ人の物語4 建国の父 ジョージ・ワシントン(上) 連載18号

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重篤

これから大統領の執務を開始しようとするワシントンの前には、どのような内憂外患が待ち受けていたのか。初めに簡単にまとめてみよう。まず内憂である。

統治を円滑におこなうためには何が必要か。効率的な行政組織である。しかし、そのようなものは存在しない。行政組織の運営に必要な税金を徴収する機関さえ満足にない。国庫は空どころか連合会議から引き継いだ莫大な負債が累積している。大陸紙幣の濫発のせいで国家の信用は地に落ちている。いまだに憲法に反対する人びとがいる。そうした人びとは大統領制度に君主制の兆候がないかどうか鵜の目鷹の目であら捜しをしようとしている。実はまだ連邦に加入していない州もある。新政府が失敗すれば、そうした州は連邦への加入を見送るだろう。奴隷制度の廃止を求める声もある。もしそうした声を聞き入れれば、南部と北部の対立が深まり、連邦は分裂の危機に陥るかもしれない。

次に外患である。イギリスが西部の要衝を抑えていて毛皮貿易の独占を企てている。それだけではない。インディアンをアメリカに敵対させようと焚きつけている。スペインはミシシッピ川を閉ざしてアメリカの西部への発展を妨げようとしているだけではなく、西部の住民を味方に引き入れてフロンティアを併呑しようとしている。さらにもしイギリスとスペインが衝突すれば、アメリカも戦乱に巻き込まれるかもしれない。その一方で、地中海ではアメリカの商船が海賊の餌食になり、多くの商船員が牢獄に繋がれている。

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