見出し画像

ミュージカル『ハミルトン』歌詞解説31―Cabinet Battle #2 和訳


はじめに

ミュージカル『ハミルトン』は、ロン・チャーナウ著『ハミルトン伝』(邦訳:日経BP社)をもとにした作品である。

物語の舞台は18世紀後半から19世紀初頭のアメリカ。恵まれぬ境遇に生まれたアレグザンダー・ハミルトンは、移民としてアメリカに渡り、激動の時代の中を駆け抜ける。アメリカをアメリカたらしめる精神がミュージカル『ハミルトン』には宿っている。

劇中では、友情、愛情、嫉妬、憎悪など様々な人間ドラマが展開される。ここでは、そうしたドラマをより深く理解できるように、当時の時代背景や人間関係を詳しく解説する。

※マガジンを購入すれば、新たに追加された記事もすべて無料で読めますが、できれば追加分をサポート(ボタンは下にあります)という形でご支援いただければ幸いです。

"Cabinet Battle 2"

※歌詞の和訳はわかりやすく意訳。

※歌詞の原文は『Hamilton the Revolution』に準拠

Hamilton the Revolution』は歌詞だけではなく、オールカラーで劇中の写真が掲載されている。英語が読めない人でも眺めているだけで嬉しいファン・ブック。Kindle版もあるけど、やっぱり紙の本のほうがいいよ!

Washington, Hamilton & Jefferson, back in the cabinet.

WASHINGTON: 

The issue on the table. France is on the verge of war with England. Do we provide aid and our troops to our French allies or do we stay out of it? Remember, my decision on this matter is not subject to congressional approval. The only person you have to convince is me. Secretary Jefferson, you have the floor, sir.

「さあ議題だ。フランスはイギリスと戦争の瀬戸際だ。我が盟友たるフランスに支援と援軍を差し向けるべきか、それとも局外中立を守るべきか。分かっているな、この問題に関する私の決定には議会の承認が必要ないと。私さえ納得させられればよい。ジェファソン長官、発言せよ」

解説:ワシントンが大統領に就任した年、すなわち1789年に始まったフランス革命は、1792年4月、フランス革命戦争の勃発で新たな局面を迎えた。独立戦争時に結んだ同盟条約がそのまま残っていたアメリカは、フランスに味方するか否か決断を迫られた。憲法に明確な規定はないが、条約の承認や大使の任命などを除けば、外交は大統領の専権事項と見なされている。ジェファソンに真っ先に発言を求めたのは、ジェファソンが外交を取り仕切る国務長官だからである。

JEFFERSON: 

When we were on death’s door. When we were needy. We made a promise. We signed a treaty. We need money and guns and half a chance. Uh, who provided those funds?

「我々が死の瀬戸際にいた時。我々が助けを求めていた時。我々は約束を結んだ。我々は同盟条約を締結した。我々はお金と銃、そして、ちょっとした希望を必要としていた。ああ、誰がお金を出してくれたのか」

解説:独立戦争中、イギリスを敵に回して苦戦していたアメリカは、フランスの助力で最終的に勝利できた。ジェファソンはフランス革命の理念に共鳴していたのでできればフランスを支援したいと考えていた。

MADISON: 

France.

「フランス」

JEFFERSON: 

In return, they didn’t ask for land. Only a promise that we’d lend a hand. And stand with them If they fought against oppressors, And revolution is messy but now is the time to stand. Stand with our brothers As they fight against tyranny. I know that Alexander Hamilton is here and he Would rather not have this debate. I’ll remind you that he is not secretary of state. He knows nothing of loyalty. Smells like new money, dresses like fake royalty. Desperate to rise above his station, Everything he does betrays the ideals of our nation. 

「見返りにフランスは土地を求めたりしなかった。ただいざとなったら我々に手を貸してほしいと約束しただけ。もしフランスが圧制者と戦うならともに立ち上がろう。革命が危機にある今こそ立ち向かう時。専制者と戦う我が兄弟達とともに立ち上がろう。アレグザンダー・ハミルトンがここにいるが議論に加わらないほうがいいだろう。よく思い出すように、ハミルトンが国務長官ではないことを。誠実とは何かなんてハミルトンは知らないぞ。新しいお金のようにぷんぷん匂うし、僭称者のように着飾っているぞ。のしあがろうと一生懸命なあまりに我が国の理想をことごとく裏切っているぞ」

解説:同盟条約でフランスがアメリカに求めた条件は、主に北アメリカのフランス植民地の保護である(フランス領アンティル諸島の防衛義務)。本来、外交は国務長官の管轄だが、ハミルトンは多くの事柄に干渉していた。この当時、行政府の中で最大の部署はハミルトンが長官を務める財務省であった。

ENSEMBLE: 

Ooh!!

「おおお」

JEFFERSON: 

And if ya don’t know, now ya know, Mr. President.

「もうこれでおわかりでしょう、大統領閣下」

解説:ジェファソンは常々、ハミルトンが耄碌したワシントンを騙していたと信じていた。しかし、ワシントンの判断力はまったく衰えていなかった。

WASHINGTON: 

Thank you, Secretary Jefferson. Secretary Hamilton, your response.

「ありがとう、ジェファソン長官。ハミルトン長官、意見を」

HAMILTON: 

You must be out of your goddamn mind If you think The President is going to bring the nation to the brink Of meddling in the middle of a military mess, A game of chess, Where France is Queen and Kingless. We signed a treaty with a King whose head is now in a basket. Would you like to take it out and ask it? "Should we honor our treaty, King Louis’s head?“ "Uh...do whatever you want, I’m super dead.”

「君は憂さが晴れるのか。大統領が国民を兵乱に干渉させようとするなら。女王も国王もいないフランスでごたごたに巻き込まれるなら。我々が同盟条約を交わした国王の首なら今、バスケットの中にある。我々は国王の首を取り出して聞けばいいのか。『我々は条約を守るべきか、国王ルイの首よ』、『なあに好きなようにするがよい。なにしろ私はすぐく死んでいるからね』」

解説:国王夫妻が斬首されたことはすでにアメリカに伝わっていた。そもそも独立戦争中にアメリカと同盟を結んだのはブルボン王家であり、そのブルボン王家が打倒された今、同盟条約を守る必要は無いとハミルトンは論じている。

WASHINGTON: 

Enough. Enough. Hamilton is right.

「もうよい。もうよい。ハミルトンの言う通りだ」

JEFFERSON: 

Mr. President—

「大統領閣下」

WASHINGTON: 

We’re too fragile to start another fight.

「我々はまた戦争を始めるにはあまりに弱国だ」

解説:当時の連邦軍の規模は、その当時、起きた北西部インディアン戦争で一時拡張されたものの、外国と戦える規模ではなかった。

ここから先は

5,572字 / 1画像
この記事のみ ¥ 200

サポートありがとうございます!サポートはさらなる内容の充実によって読者に100パーセント還元されます。