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君の影を探して 初夏
日に日に空からの照る光が強まり、新緑はその身にたくさんの光を浴びながら、地へと影を落として木陰を作っていた。
山の中を歩く。何故ここへ?
それは“君”がここにいるんだと、僕は感じているからだ。奔放な“君”のことだ。僕がどこを歩いてもひょいと物の陰から現れて、僕を驚かそうとする。今回もきっとそうだ。歩けば必ず“君”は現れる。
柳緑の溢れる山道を一人歩く。桜は、春風にさらわれた花弁との別れを哀しむ暇も無いかのように、次から次へと葉を広げていた。タンポポは綿毛をつけ、これから旅に出ようとする子たちの未来を思い描いてか、未だに次から次へと花を咲かせている。菜の花は黄色の海を作り、モンシロチョウがひらりふわりとその海の上を歩く。そんな日向にある風景とはうって変わって、山の中は常緑の古い樹木から落葉の若い木々ばかりがあり、そして何よりこごみだらけであった。土を肥やすクヌギの木々の根元にこごみが群生しているのを見て、嗚呼、天ぷらが美味しいだろなと考え出す。
そんな神の御座すであろう山の中にいながら俗なことを考えて散歩をしていくと、いきなり視界の端から“君”が現れた。
新緑の作る木陰、そこに現れた“君”は。
スミレ色のワンピースを着た“君”が草葉の陰からひょいと躍り出た。“君”は言った。
「生きてたのね!嬉しいわ!ここまで来てくれてありがとう」
そう言い終わると、薫る風にワンピースの裾をふわりふわりと舞わせ少しのあいだ踊っていたかと思った次には、木々の間を軽々と走り抜けて何処かへと行ってしまった。
“君”は本当に奔放だ。
僕のただの空想かもしれない。思い出せるような思い出せないような、そんな遠い記憶かもしれない。ただ、“君”はいたんだ。“君”はいるんだ。僕が想う限り、いつまでも。奔放に振る舞う“君”は、もしかしたら、僕の……
「“君”からの便り、読みました。今年はいつもより暑くなるそうです。暑さに弱らぬようご自愛ください。と言っても、君は他から見ても分かるぐらいの健康体でしたね。またその有り余った元気を使ってどこかに隠れて僕を待っているのでしょう。また探しに行きます。待っててください」
祈るかのように呟いた。