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【詩】密かに咲く
黄昏時に
出会った桜の木。
ここに人は滅多に来ない。
たとえ来たとしても
誰も見向きもしないだろう。
細く、淑やかな桜が一本
雑木林の中で咲っていた。
僕はそれを見て
密かに咲いていると思った。
僕はそれを見て
密かに咲くことを覚えた。
人がいる、
人がごった返している、SNSの中で
ただ、ぽつりと、佇む僕は
その桜のようだと、ふと思った。
桜は、人目につくところに咲くから
人から愛されるのだ。
しかし、人目につかない桜は
一体、どうなる。
その桜に、哀しみは無い。
その桜は、ただ、咲っている。
その桜は、静かに、咲っている。
その桜は、密かに咲く。
僕も同じように、密かに咲く。
ただそれだけが、僕の人生かもしれない。
近くの小さなダムの放水音が、
轟々と音を立て
夕闇に溶けていった。