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草露 文(あや)
2022年4月9日 21:35
晩春。夏を間近に感じる、太陽の光と、暑さとを含んだ暖かな風が吹いている。桜の花弁は、甘い香りと共に風に乗って山里へと降りてくる。時にひらりひらりと舞い降りて、アスファルトの上を風と一緒に歩き回る。散歩をする私を追い越し、春の終わりへと先導するかのように、その薄桃色の小さく儚い姿は、いつかの君のようだった。 はて、“君”とは誰のことだろう。思い出せるかどうかも怪しい、遠い記憶のことなのか。はた