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【終わりの始まり】第4話:「山下の最期」
▼第1話
——「見てしまったな」
耳元で囁かれた気がした。
いや、気のせいじゃない。すぐそこに、誰かがいる。
僕は動けなかった。
心臓が喉までせり上がる感覚。
ドアの下の隙間から滲み出ていた黒い血は、少しずつ範囲を広げていた。
まるで生きているように、じわり、じわりと部屋の中へと広がる。
その時——スマホが震えた。
山下からの着信だった。
山下——?
震える指で応答ボタンを押す。
「……おい、山下!? どこにいるんだ!?」
ノイズ混じりの音が返ってくる。
——「あ……た、すけ……」
その声は、まるで水の中で喋っているようだった。
かすれて、ひどく濁っている。
——「あ、そこ……だ、れ……だ」
一瞬、意味がわからなかった。
僕の背中に、冷たいものが流れ込む。
「そこにいる”何か”を、お前も見てるのか?」
そう聞こえた瞬間、スマホがプツリと切れた。
——いや、それよりも。
僕は、確かに気配を感じていた。
視界の端、部屋の隅。
真っ暗なはずのそこに、“違和感”があった。
黒よりも、もっと深い”何か”が、そこに立っていた。
「カン……カン……」
今度は、部屋の中から音が聞こえた。
(続く)