【北欧暮らし】秋のスウェーデンで気をつけたいこと
シカを轢いた。
厳密に言うとぶち当たったの方が正しいかもしれない。道路脇の森からシカが飛び出してきたのだ。
幸い咄嗟に走行スピードを緩められたので、シカの方も踵を返す途中で車に当たった感じになった。
シカはそのまま森へ消えて行った。
余談だが、こういう時に避けようとハンドルを切るのはやめた方がいいらしい。そのままスピードを緩めながら直進してはねる。避けようとして道路脇に逸れるほうが怪我や死亡のリスクが高いらしい。
ところで、スウェーデンではこういう時に警察に通報することになっている。指定野生動物との交通事故をViltolyckaという。シカの類、エルク、猪、熊や狼などが指定動物の一部だ。動物の生死にかかわらず、5日以内に通報しないと罰金刑の扱いになる。
事故現場には目印をして、警察に事故の起きた日時を報告する。車を買うと大抵「Viltolycka Ring SOS 112」の札がトランクに入っている。これをその辺にある木の枝にでもくくりつけるなりして目印にできますよということだ。目印はなんでもいいらしい。
シカを跳ねても私は落ち着いていた。
ように思えたが、やっぱり少しパニックになっていた。安全に停車できるところもなかったのでそのまま勤務先方向に車を走らせた。時刻はその場で確認。現場はわかりやすい場所だったので、勤務先についてからGoogleマップでピンを打った。
さて警察に電話だ。スウェーデンは緊急事態はまず112に電話をかける。なんでも112だ。オペレーターが私の安否を確認してくれて、温かい気持ちになる。私の無事がわかるとオペレーターは事故現場を管轄する警察に繋いでくれた。15分ほど待って警察の担当者が応答した。
そして怒られた。
軽いパニックだったのもあって、現場にマークすることが頭になかった。オペレーターはマークしなかったことが重犯罪のような勢いで声を荒げている。
オペレーターがちょっとしつこいので、言い返してしまった。「過ぎたことにガタガタと、今何をするのが1番重要なの?!」みたいなニュアンスで。
今、私はそんなこんなで罰金の危機に瀕している。
たてついたせいではない。マークしなかったことが罰金の対象になるらしい。
位置情報の共有をするのに、スクショしたGoogleマップ写真を送る案は、警察のSMS機能がイマイチで使えず。
オペレーターはとにかく正確な位置を求めてくる。「この十字路から道沿い2-300メートルの範囲内」では余りにも広いとまだ怒っている。
Googleマップ上のGPSの数字がどれかわかららず、Googleマップの位置記号を試したが、オペレーターは受け付けない。そんなに位置情報が欲しいのに、それは断るんかい。
そしてオペレーターはご立腹のまま通話終了。
すぐに夫に電話した。一通りギャースカしたところで彼が一言「今から現場に戻ってマークしたらそれでいいか聞いてみては?」
その手があったか。
早速112に繋ぎ直してもらった。別のオペレーターの人は「それは素晴らしいアイデアだ」と優しい。でも罰金については分からないらしい。
兎にも角にも市民の義務を果たすべく、仕事着にジャケットを引っ掛け、すぐさま車を走らせた。
上司に離席報告をすると、なんとも優しい言葉をかけてくれた。オペレーターに散々怒られ、罰金の危機に瀕する私の心に沁みる。
私たちは仕事柄、普段から警察と協力しあう機会が多いのだけど「それはないわ」という警察の振る舞いや対応を見聞きすることも少なくない。
上司は「Typiskt! (でたわ、典型的な警察の対応!的なニュアンス)」と始まり、私が感じたことを全て代弁するばかりか、怒りのオペレーターへの感情は私以上に煮えたぎっていた。
そんなこんなで私は事故現場に向かった。反対車線に車が停車しているのがみえる。蛍光色のベストに長靴を履いた老齢の男性がそこに立っている。
私はここで、なぜオペレーターが事故現場の正確な位置にこだわっていたのか知ることになる。
蛍光ベストの老紳士は猟師で、怪我した(だろう)シカを安楽死させるために、警察に派遣されてきたのだ。怪我した野生動物の捜索は、どうやら始点を正確に決めるのが相当重要らしい。
マークし忘れたものの、猟師さんと直接会って現場を見せ、彼に感謝までされてしまい、なんだかラッキーな気さえしてきた。
このまま罰金免除になるぐらいラッキーだろうか。
そんなことを考えながら車に乗り、きた道を戻った。猟師さんは小型の猟犬を従え、シカの捜索を始めた。
職場に戻ると上司が直接いたわってくれた。一部始終を話すと、「猟師の連絡先聞いた?もしかしたらお肉分けてもらえるかも。事故でシカが死んじゃったらトランクに詰めて持ち帰るとか、結構あるのよ。」
スウェーデンでは、野生動物の交通事故はジビエに化けるらしい。そういえば、猪のオーブン焼きは絶品だったし、トナカイのステーキはスウェーデンの蒸留酒とよく合った。ジビエは美味え。
スウェーデンの秋はViltolyckaが多発する。安全に運転したい。ジビエとか言っている場合じゃない、安全第一だ。そして罰金免れますように。
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