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「コスパで考える学歴攻略法」

「コスパで考える学歴攻略法」(藤沢数希 新潮新書)

物理学の博士号を持ち、香港にて資産運用業・文筆業を営む著者による、日本での子供の教育戦略についての本。「これは日本の教育の「攻略本」だ」(3ページ)とし、「各家庭が中学受験と高校受験のどちらを選択するべきかのガイドラインを示す。そして、それぞれの選んだ道で、子供が学歴獲得競争で勝つための戦略を論じることにする。」(5ページ)と述べている。著者は日本の教育を受けて東京の大学に進学し、留学して物理学の博士号を取得して、金融の世界で働いた後、文筆業を営んでいるとのことである。日本の教育を受け、海外からの視点も持ち、教育関係者でないために、新たな視点でかなり自由に論じていて、面白かった。また、後半には子供の英語勉強法について書かれていて、非常に参考になった。最後(202-205ページ)の「日本の教育はまったく悪くない」も、ただ根拠なく日本を持ち上げるわけではなく、きちんと冷静に日本の教育の良い点について述べていて、新しい視点であると思った。

「昔は東京の男子御三家といえば武蔵の方であったのだが、東大合格者数が減ったことなどから、現在ではこちらの駒場東邦が御三家になっている。日本の高校間の競争の厳しさが垣間見られる。」(49ページ)

「一方で、日本は良くも悪くも、こういう大学院レベルの学位が要求されない、ある意味で低学歴社会である。これを逆手に取れば、日本はキャリアで大幅なショートカットができるということである。東大や京大などの学部を卒業しただけで、東京なら世界的な大企業がちゃんとしたポジションで22歳の実務経験がない学生を雇ってくれる。そこで3年ほど経験を積み、実務経験を作ってしまえば、外資系企業に転職するなりして、25歳くらいの若さでかなり高いポジションに就くことができる。それは海外ならMBA(経営学修士)を取得した後の30歳前後でようやく就けるようなポジションである。」(72ページ)

「アカデミックな世界に行きたかったら日本の大学を卒業してから海外の大学院のPhD課程に進めばいいし、ビジネスの世界で成功したかったら日本が低学歴社会であることを逆手に取って新卒でグローバル企業に就職してしまえばショートカットができてしまうのだ。このように日本の大学は使いようによってはじつにコストパフォーマンスが良いのである。」(73ページ)

「学術研究と受験勉強では必要なマインドが真逆」
「研究ではこれまで誰もやったことがないことをやらないといけない。」
「一方で、受験勉強では、先生の言うことや教科書に書いてあることは疑ってはいけないし、疑う必要もない。」(86ページ)
「受験勉強では、これまで誰も考えたことがない切り口で分析する、すでにある常識を批判的に検証する、自分の視点で新たな問題を提起する、などといった研究者にとってとても大切なことはまったく必要ないどころか、こうした余分なことを考えている方がむしろ受験勉強の効率は落ちるのであ。」(87ページ)

「大学入試のための受験勉強を通して学ぶ知識や論理的思考力といったものは決して無駄ではないのだが、こうした与えられた知識を盲目的に覚えていけば勝てる受験勉強で培ってしまった学問への姿勢、ある種の知性観といったものは、大学に入学したらすこしずつアンラーンしていく必要がある。日本の受験勉強に有利なマインドセットは、何か新しいことをやらないといけない研究者としてはもちろん、ビジネスでも成功を阻むことがよくある。大学に入ったあとも、しばらくは受験勉強と同じように教科書の知識を学んでいく必要があるが、その先にある研究の世界では、ゲームのルールが根本的に変わってしまうことをよく自覚しておかないといけない。」(88ページ)

「子供に方程式を教えるべきか」
「自分は勉強ができると思っている大人が中学受験の算数の問題を見ると、すぐに方程式で解きはじめる。そして、このような面積図や線分図の解法をバカにする。こういう中学受験算数の世界を舐めている大人は、謙虚にこうした算数のツールを学ぶことなく、子供に方程式を教えようとする。こうした過ちが、毎年繰り返され、子供たちは大混乱に陥るのである。悪いことは言わない。そういうお父さんは、いますぐ子供の中学受験の勉強を直接見るのをやめて、すべて塾に任せよう。少なくとも算数に関してはそうだ。」(134-135ページ)

「筆者の英語勉強法」
「まず、筆者は中学生ぐらいのときに発音記号を読めるようになっていた。」(166ページ)
「高校2年生ぐらいに本屋で「DUO」という単語帳を偶然見つけて買ってみた。」(167ページ)

「しかし、留学が経済的に難しい場合もあるし、日本人としての文化の理解がおろそかになる、という点も心配かもしれない。日本はなんだかんだと島国の経済大国であり、その特異な文化を理解していることは将来役に立つかもしれない。日本人としてのアイデンティティがなくなれば、否が応でも、グローバルな労働市場で、中国人やインド人のエリートたちと英語の世界で競争しないといけない。逆に、最初にすこし述べたが、日本語という言語や日本独特の商習慣などの参入障壁が日本のホワイトカラーの労働者たちを良くも悪くも守っているため、日本の大企業や官庁での仕事はいい大学を卒業した日本人に独占されており、国内のホワイトカラーの競争はとても緩いのだ(筆者の意見ではこのように経済のグローバル化を阻み、言語と文化の障壁を使った労働市場の鎖国を行ってきたことが、世界経済の成長に乗れずに孤立した日本の失われた30年の原因である)。このぬるま湯の既得権益層の中に入れてもらうためには日本語ネイティブで日本の文化に浸かっており、日本のいい大学を卒業する必要がある。」(171-172ページ)

「子供の英語の正しい勉強法」
「日本である程度の英単語を覚えて、基本的な文章を丸暗記しておくといいだろう。よく言われているように、語学留学の機会を活かせるかどうかは日本でどれだけ勉強していくかなのだ。」(173ページ)
「親が英語をある程度できたらいいのだが、できない場合は、やはり英語の発音を矯正できる先生がいれば素晴らしい。ここでフォニックスなど単語の綴りと発音の関係を子供が学ぶための教材を使ってもいい。フォニックスとは綴りと発音のだいたいの関係を子供が学ぶために、英語圏でもよく使われている学習法である。ELSAという人工知能で英語の発音を直してくれるアプリもある。」(174ページ)

「フィリピン留学は夏休みに1ヶ月行くと30万程度の費用になるので、じつはオーストラリアやニュージーランドのクラスで行う語学学校と、フィリピンのマンツーマンではそんなにコストは変わらない。できれば小学生のうちに、遅くとも中学2年生くらいまでにはこうした語学留学をさせたいところだ。もちろん留学中は1日10時間はぶっ通しで英語を勉強することになる。」(175ページ)

「小さい子供は言葉を自然に覚えるが、同時に驚くほど綺麗さっぱり忘れるのである。幼少期に親の赴任でアメリカなどに住んでいてネイティブと同じように英語をしゃべっていた子供でも、小学校の低学年ぐらいで日本に帰ってきて、何か特別な英語力を維持するための環境を用意しないと、ものの見事に忘れてしまう。これが日本に帰国するのが小学校の高学年以降になると、ちゃんと覚えている。筆者が英語教育の重要な時期は小学校高学年から中学生ぐらいだと考えるのは、このような理由からだ。こうした子供の外国語習得の事情をもっと知りたい方は、言語学者である中島和子氏の「バイリンガル教育の方法」(アルク選書)を読むといい。」(176ページ)

「どうやって留学先の学校を探せばいいかだが、留学コンサルタントなどに頼むと前述の金額の上に、いろいろお金を取られるので、各国大使館が日本で開催している留学フェアに参加して、自分で見つけるほうがいいだろう。そうした留学フェアに留学生を受け入れている学校の先生たちが来ていて、ブースでいろいろと学校の様子や選考について教えてくれる。そこでいくつかの学校に目星をつけて、アポイントメントを取り、子供といっしょに実際に現地の学校を見学しに行くのだ。この学校見学の際の子供を交えた面談がほぼ選考である。だから、見学の前に、ある程度は親子で英会話ができるようになっている必要がある。留学コンサルタントを挟まず、学校と直接やりとりして子供を留学させるには、当然、親がすべて英語で会話し、電子メールのやりとりも英語であるし、手続き等も英語である。学費の振込等で現地の金融機関などとも英語で手続きすることになる。」(181-182ページ)

「日本の教育に足りないものは一にも二にも英語であって、IT教育ではない。プログラミング習得に重要な能力というのは、教科書を理解し必要事項を覚え論理的に考えを組み立てられることであり、これらは日本での伝統的な入試のための受験勉強を通して特によく鍛えることができるところである。プログラミングは大学に入ってから始めても、まったく遅いということはない。」(189ページ)

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