集団の5段階⑥ ステージ5 「人生は素晴らしい」 ~無限に発展していく文化とネットワーク~
書籍『トライブ』で定義されている最高のステージが、ステージ5です。
『トライブ』で、ステージを分類するために用いたのは、集団に所属する人間がどのような言葉を使っているか、ということです。
ステージ1 人生、最悪、めちゃくちゃ、ぶっ壊す、無理、無視、どうでもいい
ステージ2 上司、人生、やってみる、無理、あきらめる、やめる、最悪
ステージ3 わたし、わたしに、わたしの、仕事、やった、やる、ある、いった
ステージ4 わたしたち、わたしたちの、チーム、やる、彼らに、ある、やった、関わる、価値
ステージ5 すごい、奇跡、幸運、ビジョン、価値観、わたしたちが
ステージ5の要点は、集団が組織内にとどまらず、関係する団体それぞれが新たな主要プレイヤーとなり、自ら発展を遂げていくことです。
ステージ5「人生は素晴らしい」
ステージ4と似た特徴を示すが、ステージ5では自分たちと価値観が共鳴するならどんな人とでも限りなくネットワークを広げていくことができる。ステージ5の文化は、歴史を変えるほどのプロジェクトが存在しているあいだ、あるいは競争相手を寄せ付けないほどトライブが先端を走っている間だけに観測される。
これを図で表すと、下図のようになります。
近年のIT企業ではプラットフォームを作り上げることでエコシステムや経済圏と呼ばれる仕組みを作り上げることが行われています。例えば、Apple社はiPhoneを中心として、ケースやアプリ、タッチペンや充電器などサードパーティが自律的に開発するアクセサリーを含めた経済圏を作り上げています。こうした、エコシステムへの参入者が増えれば、ユーザーには選択肢が増え、商品の価値が高まっていきます。また、iPhoneを選択する理由の一つとしてiPhone同士で利用できるファイル交換の仕組みであるAirDropが挙げられることがありますが、このAirDropもiPhoneユーザーが増えれば増えるほどiPhoneの価値が高まります。
こうした「参入者が増えれば増えるほどネットワークの価値が高まる現象」をネットワーク効果と呼び、こうした効果を生み出すネットワーク構造を「ネットワーク外部性」と呼びます。現代ビジネスではこのネットワーク効果をいかに生み出すかが焦点の一つとなっています。
注意しなければならないこととして、新たな参入者が自身の利益のためにネットワークに参加する構造をとる必要があることが挙げられます。
中心となる集団自体が補助金を支払うような構造になっている場合にはネットワークが広がれば広がるほど運営が赤字になってしまうのです。
有力なプラットフォームはネットワーク外部性を持っていることが多いですが、近年、UberとAirbnbの比較が挙げられることがあります。格安タクシーを提供するUberは運営が調達した資金からの補助金で運営されており、また、プラットフォームではあるがネットワーク外部性を持ってはいないという点が指摘されています。
それは、参入者が増えたとしても、利益が地域内に限定されるためにシステム自体の効率化が促進されないことが理由になります。
例えば、ロンドンのUber従業員が増えたとしても日本にいる利用者の利益にはならない、という具合です。
一方で,民泊を提供するAirbnbは,利用者と民泊提供者をつなぐことで利益を上げているため、民泊の参入者が増えれば増えるほど提供されるサービスの質が向上していくネットワーク効果が見られます。
ロンドンで提供者が増えれば、日本にいる利用者にもメリットがある、ということです。
ネットワーク効果は電話などにも見られ、本来はデジタル技術との関連はなかったのですが、IT企業によるプラットフォームビジネスとの親和性が高いため、ネットワーク外部性はITビジネスと紐づけて語られることが非常に多いです。
とくに、人と人をつなぐビジネスではネットワーク外部性が生じることが多く、IT機器によって事務作業や情報共有を自動化し、権限委譲によって決裁作業を簡略化するなどの工夫をすることでネットワーク効果の恩恵に浴することもできるのだと感じます。
もう一点、加速度的に関係者が増大する構造として、チェーンメールやネズミ講に見られる指数関数的な増加構造が重要です。
ダグラス・ホフスタッターが『メタマジック・ゲーム―科学と芸術のジグソーパズル』で拡散力の強いミームの構造について説明をしています。
呪いのチェーンメールは、
①このチェーンメールを見たものは「死ぬ」(不幸が訪れる、地獄に落ちる、幸運が訪れる、など複数バリエーションがある)
②死を免れる(不幸な運命を避ける、地獄行きを回避する、あるいは幸福になる)ためには、これを〇〇人に伝えなければいけない。
ダグラス・ホフスタッターは、世界的な宗教がどれも同じ構造をしていることを指摘していますが、この2つの構造を持つ文化的情報(ミーム)は、指数関数的に広がっていくことが知られています。
企業文化やサービスがネットワーク効果によって強められながら広がっていくことで、ステージ5のような無限に発展していく構造が作られますが、爆発的な広がりをするためには、企業文化やサービスに触れた「感動」を他人に伝えたいと思う要素が不可欠であるように思います。
これまでに、文字、お金、活版印刷、電話、インターネット、スマートフォンなど、様々な概念・製品が表れては、ネットワーク効果によってその存在感を強固なものにして時代を大きく変化させてきました。
それらの爆発的な発展を支えるのは、いつも、人と人の「人生は素晴らしい」という感動の声なのかもしれません。