補給がこない
#10年前の南極越冬記 2010/1/6
ちょうど10年前になる。当時、僕は越冬隊員として南極にいて、こんなことを書いていた。
◇◇◇
12月18日迄に定着氷から51次隊本隊をヘリ輸送を完了し、その後セールロンダーネ隊が居るクラウン湾へ物資輸送に向かっていた砕氷艦しらせ。当初の予定通りであれば、今ごろ昭和基地へ到着し、ヘリと氷上輸送による本格物資輸送が開始されるはずだった。が、しかし肝心のしらせがまだ来ない・・。
この冬僕らを悩ませてくれた記録的な積雪が、昭和基地から約20キロ離れた定着氷域でしらせの行く手を阻んでいる。新しく搭載された船首から海水を撒いて雪を融かして砕氷航行するシステムも、積雪と氷が厚すぎるせいで、ポンプが海水を上手く汲み込めないらしい。何とか懸命にチャージングを試みているようだが、時速100〜200メートルしか稼げず、加えて今晩から再び大型のブリザードの予報だ。もうすでに窓の外は吹雪き始めている。
この時期の海氷はパドルやシャーベットアイスのせいで状態が悪いため、雪上車と橇による氷上輸送には大きなリスクが伴う。大型の重量物や、51次隊が生きて行くのに必要な燃料があるため、できるだけしらせには昭和基地に近づいてもらい、氷上輸送の距離を短くしたかったのだがどうやら無理そうだ。
昨晩行われた51次との話し合いで、一先ずしらせの居る弁天島沖までの約30キロのルート工作を行う方向で決まった。僕も参加する予定だったリュツォ・ホルム湾沿岸への地圏観測のヘリオペや、今後の夏オペ、クラウン湾でのセールロンダーネ隊のピックアップ予定も一旦白紙となり、とにかく燃料など最低限必要な物資の輸送に全力を注ぐことになった。これから梱包済みの持ち帰り物資も、必要なものと緊急を要さないものとに仕分けをし直さなければならない。
想定外の事が起こる。南極ではそれすら日常だ。
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