「フェラーリを手に入れた。」
「この紋所が目に入らぬか!」
っていう有名な台詞がある。
いや、物はなんでも目に入れたら痛いだろうとか小さな頃はずっとそう思っていたけど
物理的でなく、「視覚で見せる身分の違い」の表現だと気付くのはわりと大きくなった頃だった。
でっかいものを手にした時、
人はそれを「威厳」として力を発揮させるか
又は、単純に人に自慢したいほど調子に乗るか
の二択だと今はそう考える。
今自分は、馬のトレードマークがギラギラした鍵をこれが見えないのか?と言わんばかりに振り回している。
僕はフェラーリを手に入れた。
市街地を走ることによる周りの視線、ガラス張りの銀行から反射する自分の姿。
普段なら絶対にしないはずの、右左折する車を無視して自分優先で走るスタイル。
自分に酔いしれていた。
車の性能を確かめたくて次は山道を走る。
地元友人たちを連れて走っていく。
田舎の男は割と車好きが多いので、山の麓の駐車場でお互いの車を見合って自慢話に華を咲かせる。
次第にスペックの話や、値段の話でマウント合戦が始まる。
もちろんカスタムの話になれば話は尽きない。
だが純正は純正の力を発揮する時はある。
「オレ、これ全部純正だから。お前らみたいにまがいものじゃねーから。」
と言って人を見下し始める。
「うるせーよ、お前といてもおもしろくねーよ。」
もちろん友人は次々と自分の元を離れていく。
自分を棚に上げている最中は、いかに自分が周りに対して強情な態度を振り撒いていることには気づかないもの。
一度の痛烈な衝撃をもらうまでは。
友「大丈夫なのかよ?出費とか維持費とかあるだろ?不安を増やしてどうすんの?突っ走りやすいのは君の悪い癖だ。身の丈に合った生活をしなさい!目を覚ませ!」
僕「う…」
という夢を見たのさ。
「あぁ夢だったのか」
とでっかいものは手には入らなかったものの
謙虚って大事なんだなって思う気持ちを、再度手に入れることができた。
純正/純粋が必ずしもいいとも言えないし、人は周りの影響や環境によってカスタマイズされていくものだけど
汚れや罵倒は時に、正しいものの見方をより理解を深める為に存在する。
身の丈と現状を見るのは大事だと思った。
時は10/19
あの大雨の中の帰り間際、打ち上げに向かう為に僕はメンバーを乗せて車を出す際に
Yutaka Ikarashiが乗り込んだ瞬間に
「ほら、これやるよ。」
と米を渡してきた。
マウンテンバイクレースの会場で売っていたものらしい。
純粋に頑張って作ったもんは、うまいんだなこれが。
僕は温もりを手に入れた。