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FIDFF2021作品紹介② 『おっさんずぶるーす』

はじめに

今回より福岡インディペンデント映画祭2021(以下、FIDFF2021)では招待作品についてご紹介します。第一弾として今回は『おっさんずぶるーす』。

本作は「日本映画、おっさんがメインの作品がもっとあってもいいんじゃない?」と考えた7人のおっさん監督が、おっさん俳優を主演に据えて、おっさんへの応援歌として制作した短編オムニバス映画です。

この記事では映画が作られたきっかけだけでなく、そしてわたしたちがこの映画を上映する理由、各監督や作品についてご紹介します。

(執筆:太田勝一郎 編集:Aika TACHIBANA

『おっさんずぶるーす』とは?企画から制作まで

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1 きっかけはSNSの書き込み
はじまりは、本作プロデューサーでもある中村公彦監督が、東京国際映画祭での、若手女性監督×若手新進女優がコンセプトで制作されたオムニバス映画のレッドカーペットを見た時に生まれた、あるアイデアがきっかけ。

2018年10月26日に「来年、おじさん監督がおじさん俳優を撮るオムニバス『21世紀のおじさん』を作ったらそれなりにお客さんが来そうな気もしないでもない。」と某SNSでつぶやいたところ、プロの監督を含むコメントが70件以上書き込まれるなど大反響が。そのつぶやきに真っ先に反応していたのが、本作に参加している監督でした。


 2 『おっさんず・ぶるーす(仮)』の企画スタート
そして時は流れ、上記の投稿から1年後の2019年10月に【突然ですが新企画スタート】と中村監督が再びSNSへ投稿を行いました。

そこで、1年前に呟いた内容に賛同した監督たちと半年以上話し合いを重ねていたことを明かし、同時にクラウドファンディングを行う予定であることが発表されました。その時、中村監督は下記のように意気込みを語っていました。

「おっさんなりに足掻かなければならない時がある。たぶん今です!
よろしくお願いします」

3 クラウドファンディング、製作開始、そしてコロナ禍での撮影

おっさんずぶるーす

MotionGalleryにて、2019年11月にクラウドファンディングがスタート。そして最終日に目標金額を達成し、映画の製作が決定!最終的にコレクターが合計212人、目標金額を上回る支援が集まりました。

早速制作準備が始まり、3月には細野組、越坂組が撮影を行うも、4月に新型コロナ感染拡大による緊急事態宣言が出て、撮影延期。約2ヶ月の中断を経て撮影再開後、8月に全作品がクランクアップ。
数々の困難があった中、10月末のクラウドファンディングコレクター向けの完成披露試写会を経て、11月に湯布院映画祭で初公開となりました。(筆者もこの時に拝見しました)

なぜこの映画をFIDFFで上映するのか?

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中村公彦監督は、2013年に『スルー・ロマンス』『もう一人のルームメイト』、2015年には『はじめての悪魔祓い』で入選するなど本映画祭の常連監督の一人。真田幹也監督も2013年に特集上映を行なうなど縁のある監督です。

そして本作そのものが、本当にバラエティに富み、いい意味でバラバラな個性的な光を放っています。そのため、様々な側面から語ることが出来るのではないかと思い、お声がけさせていただきました。

インディペンデント映画で重要なことの一つが、商業的な制約を取り払い、本当に自分たちの作りたい映画を追求できることです。
それ故に何故おっさんがテーマのオムニバスを作ろうと思ったのか?それぞれの監督がおっさんにどんな想いを込め、どんな表現に挑んだのかを掘り下げていく事で、インディペンデント映画の可能性を探っていきたいと思います。

上映後の舞台挨拶では、上記だけでなく、クラウドファンディングでの映画制作を選んだ理由やコロナ禍での撮影や制作はどんな困難があったのか?などなど、制作者と観客が直接語り合う場にしていければ、と思っています

超個人的なオススメポイントはここ!

監督写真

その1 個性あふれるクリエイター×キャストが集結!
今回様々な個性的なクリエイターが参加している本作。それぞれの監督の経歴と主演、見どころをちょこっと紹介します。

『21世紀のおじさん』の前田直樹監督は、CM制作会社の制作進行としてキャリアをスタートし、演出を学ぶため渡英。ロンドンフィルムアカデミー在学中に商業監督デビューという異色の経歴。短編『マリッジカウンセラー 結衣の決意』が現在配信中です。

『21世紀のおじさん』主演の藤井太一が、会社でも家庭でも窓際族で会社をリストラされ、「おっさんレンタル」業を始める男を演じる。ちょっとハートウォーミングなオープニング作です。
個人的には藤井さんと西村大樹監督が顔がソックリなのもツボ!

『オファーを待ちながら』の真田幹也監督は、俳優としても活躍している映画監督。短編映画でキャリアを重ね、商業デビュー作となった2019年『ミドリムシの夢』は現在動画配信サイトで配信中です。

本作『オファーを待ちながら』では、主演の仁科貴が50歳を過ぎても夢を追っている、売れない舞台役者の悲哀を熱演。

『全く最近のおやじモンときたら…』 の荒木憲司監督は、2005年『妄想少女』(主演:森下千里)で劇場映画監督デビュー。昭和でアナログ的なレトロ感覚あふれる作風が特徴です。
『2085年、恋愛消滅。』(2016)『俺は前世に恋をする』(2019)
『私だってするんです1・2』(2020)など、中村公彦監督とのコラボ作も多数。

『全く最近のおやじモンときたら…』 は主演の江島卓が、趣味の特撮やアニメなどに興じる50歳の大人を屈託なく演じています。その独特の世界観に魅了されること間違いなし!


『たそがれのあとに』の西村大樹監督は、一番の異色の経歴を持つと言えるのでは。日本映画学校卒業後、東映動画三期演出研修生としてアニメ業界入り。『美少女戦士セーラームーンSuper’s』などの演出助手を経て、テレビアニメ『アークザラッド』にて演出デビュー。その後『ガンダムSEED DESTINY』『NARUTO』など100本以上のアニメの演出・監督を担当。本作が初の実写映画監督作となります。(ちなみに筆者とは映画学校の同期でもあります)

『たそがれのあとに』では、主演の泊帝が純文学作家がむかえた人生の岐路を静かに演じています。意外や意外、正統派日本映画の風格を感じる作品。

『トイレのおっさん』の越坂康史監督は、日大映画学科卒業後、東映系の映像プロダクションに入社。2000年にフリーとなり、2009年には自身の会社を立ち上げ、監督・プロデューサーとして数多くの作品を生み出している実力派。オリジナルビデオのヒットシリーズも多数!

『トイレのおっさん』は高橋信二朗主演で、事故で死んでしまった部長が、会社の女子トイレの便座になってしまうという奇想天外な物語を描く!間違いなく一番の問題作!

本作品プロデューサーでもある『カリスマハウス』の中村公彦監督は、主に「サーモン鮭山」名義で映画・Vシネマに多数出演。函館港イルミナシオン映画祭第14回シナリオ大賞でオリジナル脚本『指先に咲いた花』が準グランプリを受賞してからは、監督・脚本業に比重をうつしています。
監督作『スモーキング・エイリアンズ』『101回目のベッド・イン』、脚本で参加した『2085年、恋愛消滅。』など、映画祭入選・受賞作も多数。

『カリスマハウス』主演の林和哉が演じる、淡々とした毎日を過ごしていた男が、自宅の庭で起きた事件から思わぬ交流が生まれる様子を描く。
人物の不在から生れるストーリーは、3.11以降の私達に様々な想いを想起させるドラマになっています。

『謎乃中年認定壱拾箇条』の細野辰興監督は、監督であり、脚本家・劇作家・日本映画大学教授でもある、日本映画界のレジェンドの一人
今村プロダクション、ディレクターズ・カンパニーで助監督時代を過ごした後、91年監督デビュー。ジャンルに捉われず社会性のある骨太なエンターテイメント作品を発表し続けている。

代表作
『シャブ極道』(役所広司)
『竜二Forever』(高橋克典・香川照之)
『燃ゆるとき』(中井貴一)
最新作に『貌斬りKAOKIRI〜戯曲【スタニスラフスキー探偵団】より』(草野康太・山田キヌヲ・木下ほうか)
『謎乃中年認定壱拾箇条』では主演の大塚祐也演じる中間管理職が、会社が「年齢ではなく『おじさん』に該当する人の退職を促している」という噂を耳にし…。大胆な架空の設定で、中高年の不安を描く、社会派奇才監督の面目躍如!

その2 脇を固める魅力的なキャスト!

主演のおっさん俳優だけではなく、本作では魅力的なサブキャストも魅力の一つです。

松浦祐也や、田山由起、田中要次など実力派の名バイプレーヤーぶりだけでなく、若林美保や範田紗々など、セクシー女優の新たな一面や、秋葉美希、近藤笑菜、川連廣明など、インディーズ映画の若手注目株の演技にご注目ください。

しかし一番注目すべきは、あの細野辰興監督伝説のカルト作『大阪極道戦争 しのいだれ』(1994 年出演:役所広司、阿部寛、本田博太郎)に出演していた仁藤優子が約25年ぶりに細野辰興監督作に出演し再タッグ!これは見逃せません!

さいごに

ハートウォーミングなドラマや、人生の悲哀、特撮SF、エログロナンセンス小説へのオマージュ、実在したカリスマを想起させる物語、社会派コメディなど、とにかくこんなに振り幅を持ったオムニバスは滅多にない必見の作品となっています。是非あなたの目で確かめてください!

福岡インディペンデント映画祭『おっさんずぶるーす』掲載ページ


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