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2023年4月に日本で承認された「中絶薬」
皆さんこんにちは
産婦人科医の内田美穂です。
皆さんの疑問に思っていることにお答えしていきながら、産婦人科を身近に感じていただくことでかかりつけの婦人科を探す際のご参考にお役に立てればと思っています。
今回は、2023年4月に日本で承認された「中絶薬」についてお話したいと思います。
「中絶薬」とは?
世界では30年以上前から使用されている中絶できる「薬」ですが、日本では2023年4月にはじめて承認され、大きなニュースとなりました。
中絶薬とは、2種類のお薬を飲むことによって手術を受けずに中絶できるものです。
中絶薬での中絶成功率
中絶薬での中絶成功率は2剤目のお薬を飲んでから1~2週間で95%以上と報告されていますが、8時間以内では90%以下であり、10人に1~2人は追加の手術が必要になります。
個人輸入した中絶薬による重篤な健康被害について
2018年に日本で海外製の中絶薬を個人輸入して自己判断で服用し、重篤な健康被害が出たことが問題となりましたが、中絶薬は資格を持った医師が適切に診断・処方すれば安全にお使いいただけるお薬です。
具体的にどのような薬?
中絶薬は、2種類の薬を使用します。
「ミフェプリストン」と「ミソプロストール」というお薬です。
ミフェプリストン … 妊娠維持に必要なホルモン(プロゲステロン)の働きを抑える薬
ミソプロストール … 子宮の入口を開き、子宮収縮をおこす薬
1剤目ミフェプリストン錠(1錠)を服用して、36~48時間後に2剤目ミソプロストールバッカル錠(4錠)を服用します。
主な副作用と対処方法
主な副作用は、腹痛と出血です。
これは手術した場合でも起きる副作用です。腹痛に関しては痛み止めで対応可能なことがほとんどです。出血に関しては妊娠週数に応じて変わってくるため、なるべく早い週数での治療をおすすめします。
日本における使用方法(適応、来院後の検査)
具体的な日本での使用方法についてです。
妊娠9週0日までが適応になります。
はじめに問診表を記入し、超音波検査で妊娠の確認と、採血を行います。
それらをもとに中絶薬を使用できるか判断した上で、薬の服用となります。
1剤目を医療機関で服用した後、一旦帰宅し、次に指定された日時に再度医療機関を受診し、その場で2剤目を服用します。
現時点では、胎嚢という組織が排出されるまでは医療機関での待機となります。
海外では自宅で待機することが可能ですが、2023年5月時点では日本でそれは許可されていません。
予定通り胎嚢が排出されれば帰宅となりますが、排出されないこともあります。
排出されない場合は、手術の適応となります。
手術方法は「掻爬法」と「吸引法」があります。
▼こちらについては別の記事でお話ししています。
メリット
中絶薬のメリットは、「手術を受けずに中絶が完了する可能性が高い」ということです。
手術では、一般的に眠る麻酔(つまり静脈麻酔)をかけて、子宮に手術器具を入れます。
その場合、リスクとして子宮に穴があいたり、麻酔によって呼吸障害などが出てしまう可能性があります。
また、麻酔で眠っている間に子宮に手術器具を入れるという行為は、女性にとって非常に恐怖感を感じるものです。
中絶薬を使用できるようになったことで女性の身体的・精神的な負担は少し軽減するといわれています。
デメリット
では、デメリットは何でしょう?
一つ目は、2023年5月時点での日本における中絶薬使用は、胎嚢という組織が排出されるまで院内待機となっているため、「時間の拘束が長い」ということです。
手術を選択した場合、当院では術前検査から手術完了して帰宅するまで最短で2~3時間で完了します。そして1回だけの受診で中絶が完了するのですが、中絶薬の場合はお薬を服薬するため最低2回受診が必要です。
二つ目に、「子宮からの出血は妊娠週数に比例して量が多くなる」ということです。
中絶薬を使用したときの子宮からの出血量は妊娠週数に比例するため、週数が大きくなると生理以上の出血が出ます。出血したときに腹痛も出ますが、多くは痛み止めでコントロール可能です。
出血量については、不安になってしまうかと思いますが、ほとんどは一時的なものなので、ピークの出血は2時間以内に落ち着き、その後は出血量は少量になっていきます。
それぞれにメリット、デメリットがあるためご自身のお身体や環境なども考慮したうえで選択してください。
中絶薬承認は、女性の選択肢が増えたということ
今回、日本で中絶薬が承認されたことの意味は、女性の選択肢が増えたということです。
世界では30年以上前から安全に使用されていた中絶薬が日本では長い年月使用できず、手術一択しかありませんでした。
今後は日本女性が命の危険をおかして海外の中絶薬を自己判断で使用する必要もなくなりました。
資格を持った医師が中絶の選択肢やリスクを説明したうえで、その女性にとってのベストな選択をすることができるようになったということは、リプロダクティブ・ライツという視点からも日本が一歩前進したと考えられます。
今後、日本の中絶医療が世界水準まで高まるよう、中絶を扱う産婦人科医としてその一端を担えたらと思っています。
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