リンゴは遊びの流れに乗って
こんにちは。秋のリンゴ。いい季節になりましたね。
今年は気候変動の影響も受けながら、リンゴの収穫が例年よりも難しくなってきているというニュースを見て、「当たり前のように安定して何かを食べることができるわけではないな」ということを感じました。
そんな中、幽玄会社・食料他給センターでは、ありがたいことに長野県のKさんがリンゴを送って下さるとの連絡を受け、秋のとある日にリンゴを5キロ頂くという出来事が起こりました。
そのタイミングは幽玄会社の共催イベントが京都で10月22日に行われる直前で、イベント会場に運ばれていったリンゴは勢いよく大分と京都のカフェとイベント会場の深夜喫茶に来てくれた方々の胃の中へ駆け出していきました。
そちらのリンゴの動きについては、こちらの Noteに書いています。
そして、翌日の23日、三浦祥敬が大阪・應典院で行われたトークイベントに登壇したのですが、そちらの会場にもリンゴが輸送されていくことになりました。本 noteの投稿は、贈与の感覚とリンゴの移動について書いた、なんとも生産性のない内容です。人生の大切な時間を、ほんの少し無に返したい方におすすめの文章となります。もしかしたら、リンゴを食べたくなるかもしれません。
では、23日のリンゴの文章、スタートです。
リンゴはあと6つ
さて、前日の22日のイベントでは、滞在先から三浦がリンゴを5つ持っていきました。イベントにたどり着いたのはリンゴが4つ。この時点で5キロのリンゴが入っていた箱には残り6個のリンゴが残っていました。
朝、どれくらいの人がいるのだろうか?と簡単に想像した後に、なんとなくリンゴを4つ持っていくことにしました。一つ一つ結構大きいので、切って少しずつ配れば楽に10人分以上にできそうです。
リンゴを紙袋に入れて、イベント会場に向かうべく、京都から大阪へ移動する京阪電車に乗り込みました。
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三条駅で今回のトークイベントの機会を作ってくれた松井君と合流します。この時点では、とりあえずリンゴを連れていくことにしたけれど、特にどういうふうに展開するのかも決まっておりません。特にまな板と包丁を持っていっているわけでもないので、いったんお寺に行ってから流れでどうにかしてみようと思いました。
お寺に着くと、お寺の事務局長のKさんがいました。Kさんにリンゴについて聞いてみると、「本堂の中で食べることは控えてもらっています」ということでした。しかし、リンゴをカットすることはOKなようです。カットはOKだが、食べるのはNG。そうなると、本堂という空間はどこからどこまでなのか?ということを考えます。本堂にはドアが付いています。そのドアが作り出す部屋の入り口の”線”。これが本堂と廊下?の境なのではないかと思いました。そうなると、本堂の中でカットされたリンゴは、その線を越えて一歩出ると食べることができるものに変質することができるらしいです。精神的に”食べること”を控える内部と、食べることがOKな外部。人間の精神が生み出す行動様式の期待というものは面白いものですね。
今回は、リンゴが特に主役でもないし、事前にリンゴ持っていきます!というふうにイベントの告知の中に言っていたわけでもありませんから、リンゴが流れていく文脈は特にありません。無理やり展開するのもおかしいと思ったので、特に本堂でカットして外で食べるということもせず、リンゴたちは一命を取り留めたのでした。
イベントの展開
イベントの内容はまた別のnoteに執筆しようと思っているのですが、ここで内容を簡単にお話すると、イベントは「贈与」について三浦が話題提供するトークと参加者それぞれで対話し、そこで生じてきた発想を全体で共有してもらう時間に結果的になりました。最初からどのように着地するのか決めない状態で即興的に始めました。
松井君が企画趣旨について話す前、なんとなく私はリンゴを4つテーブルの上に置きました。特に意味もありませんし、リンゴの話をするのかもわからないまま、並べたくなったのでした。2種類の色のリンゴが4つ並びます。私の背後には阿弥陀仏如来がいらっしゃいました。ちなみに應典院さんは浄土宗のお寺です。その場でリンゴを眺めると、なんともお供物みが増しているようです。
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三浦の方にマイクが渡った後、まずはじめにやったのは、席とテーブルを退けることでした。「ピンとくるところに、座りましょう」とアナウンスして、最初に作られていた席の配置を崩すところから始めました。
その時、リンゴにも動きが起こります。
三浦によってピンとくるところに運ばれていきました。参加者の方々がいたいところに座り、リンゴも連れていかれ、佇む場所が変更されました。リンゴが見つめられ、運ばれ、最終的にリンゴ4つはバラバラに、スライドを映すスクリーンの周辺やスライドを投射するプロジェクターの上などに落ち着きました。
さらに会は進行していきます。三浦の話の後、参加者の方々3〜4人でお話する時間が設けられました。それが始まって、数分後、ピンときた三浦によって、リンゴがそれぞれのグループに届けられます。目的もなくやってきたリンゴは”トーキングオブジェ”になりました。
ワークショップの世界では時々使われる手法です。それぞれの人が話し、聞くことを促すために、話している人が特定のものを持ち、他の人が発言する時にそのものを渡す、というものです。全く予定していなかったのですが、リンゴは突然人の対話の循環の中に放り込まれ、みんなの手を渡り続けました。どういうお話を聞いたのでしょうか。気になります。
イベントが終わり、リンゴの役割も終わりました。特に目的なく持ってきたわけではないものの、その場の流れに乗るとリンゴはサッ、サッと移動をするようです。一つのリンゴを持っている方が三浦に話しかけました。その瞬間、食料他給センターが立ち上がります。食料他給センターから、リンゴが贈られ、参加者の方にリンゴが渡りました。「どうぞ!」と言うと、「ワッ」と返答があり、持っていって下さいました。最後にリンゴを持っていた方々、持って帰ってくださりありがとうございました。
一つ、ただテーブルに置かれたリンゴがありましたが、そちらのリンゴはイベントの中で興味深く、面白い発言をされていた方と三浦が目があった時にまたもや他給センターが立ち上がり、「よかったらもらって下さい」という言葉と共に渡っていきました。特にこの方々と連絡先のやり取りもしていないので、今後のリンゴのトレース自体も手放しですが、リンゴがそれぞれの家庭で美味しく食べられることを心から祈っております。
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さて、そんな感じでリンゴがそれぞれの方向に駆け出していったのですが、企画をしてくれた松井君から連絡が来て、リンゴの行先の一つが判明しました。一つのリンゴはイベントのボランティアスタッフの方が持っていって下さったのですが、「たまたま、道端にいたホームレスの人にあげました!」というメッセージが芸術祭のスタッフの方々のLINEに流れたようです。想定していない動きが起こり、「おおー」と思いました。今頃、美味しく食べてもらっているのでしょうか。それともその方がまた別の方にあげて、また別の方にあげて、その流れが続いているのでしょうか。人が何かをあげること。その流れはどこからくるのか、大変謎であります。
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ということで、あと2つだけリンゴが残っていますが、22日、23日のリンゴの移動の話は終了です。特にこの文章を書いても何になるのかわかっていないのですが、イベントが終わった後に、リンゴについての文章がとめどなく生じてくるので、当方困惑しております。リンゴを贈る気持ちもどこからやってくるのかわかりませんし、リンゴの流れの顛末を報告したいという気持ちもどこからやってくるのかわかりません。
ですが、確実に言えるのは、少しだけ頂いたリンゴはとってもおいしかったですし、リンゴが愉快な形で渡っていく流れが起こったことが心地よかったです。巡っていく喜び、というものがあるように感じます。そのような喜びを味わわせて下さった、自然/農園/運輸スタッフの皆様/🍎(5キロ)を下さったKさんには特に感謝です。そして何より、🍎さんも一緒に遊んでくださって、ありがとうございました。たぶん、大切に食べて下さる方々と出会うことができたと思います。巡らせた先には責任を持てませんが、責任の範囲を超えていきながらも、良い流れが起きていたと思いますので、大丈夫だと信じます。
以上で、リンゴの話はいったんクローズ。あと2個ありますが、何か起こった場合はまたご報告しようと思います。では!
(ゆ)白洲詠人