+物産展に心がおどる
おとなになったな、と思う瞬間に、
・物産展に心がおどる
を追加した。
おとなになればなるほど、精神的な世界は広がるのに、物理的な世界はさまざまな制約でせまくなりがち。
そんな折、遠く離れた土地の名物が一堂に会する物産展は、とてもありがたい。
ちなみにいままでの「おとな実感ステップ」は下記のとおり。
先日、百貨店で催された《紅花の山形路 物産と観光展》に足を運んだ。
北海道展はわりと頻繁にあるものの、山形はなかなか機会がない。しかも、初夏ならさくらんぼがちょうどシーズン。
対面販売だからアンテナショップとは違う活気があるし、厨房併設だから出来たての香りが楽しめるのもよい。
焼けた肉の香ばしい匂いに誘われそうになるが、重点的に見て回るのは、やはり甘味ゾーン。
まずは、新しめの洋菓子店と老舗和菓子店がコラボした、催事限定商品をチェック。
さくらんぼとピスタチオのムースかな…と思って近づいたら、予想を裏切られた。
赤褐色の層には、「のし梅」のシロップが使われているという。
梅とピスタチオ。味の想像がつきそうでつかない組み合わせだったが、梅の酸味がフルーティーで、全然違和感がない。
かろやかな生クリーム、いちごのみずみずしい甘み、梅の濃厚な酸味、一瞬ゴマかと思うくらい香ばしいピスタチオ。
「のし梅」は山形の伝統銘菓で、梅をペーストにして寒天を練り込んだものを、薄くのばして乾燥させたものだそうだ。
山形といえば、さくらんぼ、ラフランス、牛肉、紅花、おもひでぽろぽろ。
伝統銘菓だというが、山形に梅のイメージがなかった。
なぜ梅のお菓子が?と思い調べたら、そこにはとても実用的な理由があった。
紅花が染料や着色料に使われているのは広く知られている。
その花から「紅」の色素を取り出すのに梅の酸が使われたため、梅の栽培も盛んに行われてきたのだという。
催事タイトルに掲げられるほど、山形の県花であり、特産品の紅花。
それを支えることで、のし梅は伝統銘菓となったのである。
ひとつ勉強になった。
ではせっかくなのでのし梅も!と思い[乃し梅本舗佐藤屋]さんの店先をのぞいたら、その「紅花」と出会ってしまった。
燃えさかるようなオレンジ色と、黄色のグラデーションの練り切り。
ダリアのようにも、色が色ならドラゴンフルーツのようにも見えるが、商品名は「末摘花」。
『源氏物語』に登場する、鼻が異様に長く先端が赤い女性に、源氏がつけたあだ名だ。
そもそも末摘花は紅花の古名で、茎の先端につく花を摘み取って染料に用いることから、こう呼ばれてきたという。
源氏物語の末摘花は、古風で引っ込み思案な女性だったとされる。
でもこの練り切りの末摘花は、ラスボス感がすごい。
いやむしろ、そんなあだ名をつけられたとはつゆ知らず、一途に源氏を想い待ち続け、最終的には報われた彼女の熱い想いを表しているのか。
だから「紅花」ではなくあえて「末摘花」という商品名にしたのかもしれない。
グラデーションだけでなく、紅花のツンツンポンポンした花弁の感じも再現されている。
和ばさみで生地をちょんちょんとつまみながら切っていく、はさみ菊の手法だと思う。
たまに趣味で練り切りを作りに行くが、力の入れ方を間違えると生地をちょんぎってしまうし、思いきりが足りないとしょぼくなってしまうし、均等に仕上げるのが大変むずかしい技法。
そりゃ店員さんに「平らに持って帰ってくださいね~!」と念を押されるはずだ。ひっくり返したら、この超絶技巧が台無しである。
舌も知識も身体も肥えはじめると、物産展はがぜん楽しめる。
さくらんぼのプリンおいしそうだな、でもアップルパイも捨てがたい、ああ~はちみつドーナツ…大吟醸ソフトだと!?と目移りしながら、小1時間ほど会場をうろうろした。
ただ、心はおどっても、それと同じペースでは身体と胃袋がついてこない。
5分でもいいから横になりたいし、農作業したあとの腰のコリ方ってこんな感じかなと思った。
おとなになったなあー。