Hunter:the Reckoning5版の紹介~現代の魔狩人たち~


はじめに

 以前の記事でも書きましたが、フロッグゲームズから『ヴァンパイア:ザ マスカレード第5版(以後、V5)』、『ハンター:ザ レコニング第5版(以後、H5)』、『ワーウルフ:ジ アポカリプス第5版(以後、W5)』の翻訳が発表されました。この中で、V5、W5は以前、アトリエサードから日本語版が発売されています。しかし、H5は日本語版も発売されておらず、どんなゲームか疑問に思う方も多いのではないでしょうか?
 この記事では、H5を紹介するとともに、翻訳されなかった『旧版のHunter:the Reckoning(以下、H:tR(rev))』(*1)との関係についても軽く触れておきます。

 なお、内容はH5基本ルールブックのみに基づいています。訳語につきましては、H5公式ではありません。V:tM日本語版を参考にしたもの、知人の訳語(*2)を参考にしたもの、筆者が独自にあてたものがあります。
 筆者もV:tM日本語版からWoDに入門した人間ですので、勘違いなどあるかもしれませんが、もし見つけたらこっそり教えていただけると幸いです。

現代の魔狩人

 簡潔に言うと、H5は表向きは現代の地球といって差し支えのない世界(【暗黒の世界/World of Darkness】)で、怪物狩人となり、社会の闇に潜み人間に害なす怪物達を「狩る」人々をロールプレイするゲームです。つまり、怪物狩りのハンターが主人公(プレイヤーキャラクター)であり、「狩る」こと、その過程で生まれる様々なドラマがゲームの主眼となります。
 では、ハンターとはどのような人々なのでしょうか?古来からの退魔組織に属し、影に潜む怪物と戦う?あるいは政府機関のエージェントとして、人間を操る怪物を密かに退治する?H5のハンターはそのどちらでもありません(*3)。
 H5のハンターとは、様々な理由で怪物が世の中に存在することに気づき、怪物たちを狩る強烈な動機を個人として得た人々のことです。この動機からくる心の動きを【衝動/Drive】と呼びます。その【衝動】に駆り立てられ、ハンター達は純粋な「狩り」に身を投じます。そこに上司からの指示で行う仕事としての狩りや、組織の保身を理由とする狩りへの妥協など、不純物の介入する余地はありません。
 だから、ハンター達は組織に属さず、【衝動】を持つ少数の同志で【セル/Cell】と呼ばれる小グループを結成します。そして、怪物たちに今までの行為への【清算/The Reckoning】を求めるのです。

■ 【暗黒の世界】と怪物たち

 【暗黒の世界】は表向き現実世界にそっくりなものの、様々なところがほんの少し違います。現実世界と同じ国々、普通の人々が暮らす影では、怪物たちが現実に存在して人間を餌食にしています。吸血鬼、人狼、魔法使い、妖精、幽霊……そして、まだ見ぬ奇妙な怪物たち。怪物は社会のあらゆるところに潜んでいます。
 警察や政府は当てになりません。【暗黒の世界】では現実より不正や組織的怠惰がまん延していますが、それだけでなく、怪物たちに浸透されていたり、超常的な力で操られてたりするかもしれません。あるいは怪物たちの影響下にある政治家から「ちょっとしたお願い」をされて捜査を中止したり、適当な仕事をして切り上げたりすることもあるでしょう。
 ハンターではない人々は、個人として手助けをしてくれることはあっても、ハンターと同じように怪物の矢面に立つことは難しいのです。

■ ハンターの様相

 ハンター達は【衝動】により、怪物狩りを第一目標としています。そして、それは、必然的に今までの生活と折り合いをつけにくいものとなります。
 親兄弟、パートナーに「実は今日仕事を辞めてきた。明日から私は怪物狩りになるんだ。給与?でないよ。これはライフワークだからね」といって納得してもらえることはないでしょう。断りもなく急に休みがちな労働者を継続して雇ってくれる優しい雇用主もそう多くはありません。結果的に多くのハンターは、社会的な成功や名声、「普通の生活」を諦めることになります。
 しかし、ハンター達にはそうまでして狩りに身を投じざるをえない【衝動】があるのです。そしてハンターをハンターたらしめているのは【衝動】だけではありません。

■ 【信条/Creed】、狩人の生き方と価値観

 【衝動】はハンターを狩りに誘い、狩りに求めるものを決定づけます。しかし、ハンターがどのような価値観をもって世界や怪物に対するのかは【信条】によって決定されます。
 【起業家/Entrepreneurial】、【信仰者/Faithful】、【探究者/Inquisitive】、【闘争者/Martial】、【アングラ/Underground】の五つの【信条】は、ハンターの価値観、世界の見方を決定づけ、そこから狩りにどのようなアプローチをするのかが決まります。
 【信条】と【衝動】、この二つはハンターが個人として狩りに向き合うために必要なものです。これがハンターと他の魔狩人とを分かつ決定的な差異となります。

■ 狩人の武器、鋭き刃

 怪物に対する【衝動】という動機、【信条】という価値観、しかし、ひとつ狩りに足りないものがあります。それが、狩人の武器である、【エッジ/Edge】です。
 エッジは銃器や爆発物、特殊な乗り物といった通常の物品を扱うものから、強力なドローンを操ったり、動物を仲間にして武器とする等の絶技、そして超常的な(あるいは超科学の)退魔の力や魔器を扱ったりと、多岐にわたります。
 これらの【エッジ】が怪物に対抗する武器となるのです。

ゲームシステム

 さて、ここでH5のゲームシステムを軽く紹介します。狩りのルールの中核は【エッジ/Edge】、【決死度/Desperation】とそれに関係する【信条】、そして【危険度/Danger】からなります。
 怪物の活動により人類に被害が出ると、ハンターの緊張が高まり【決死度】が増大、そして【信条】で定義された分野の【エッジ】ダイスが強化されます。つまり、怪物の所業によりハンターたちの危機感が強まり、懸命になることで怪物への武器たる【エッジ】の効果が上昇するのです。
 ただし、【決死度】と関係する【決死ダイス/Desperation Dice】の出目によっては様々なトラブルが発生します。場合によっては怪物の警戒度である【危険度/Danger】が上昇することもあるでしょう。このサイクルにより、「狩り」の行程がスリリングに展開していくことになります。

【組織/Org】との緊張関係

 ハンター以外に怪物と戦う人々は居ないのでしょうか?いいえ。H5では、ハンターの他に怪物に対峙する存在として【組織】が設定されています。有名なものではV5でも出てくる【第二審問/Second Inquisition】の構成組織や、あるいはアルカナム、レオポルド教会などV:tM日本語版で見た懐かしい名前もありますし、他にも大小さまざまの【組織】も用意されています。
 しかし、ハンターと【組織】は、共に怪物と戦う味方であると単純には言えません。何故ならば【組織】は、ハンターと違い、怪物に対処することがただ一つの目的ではないからです。例えば組織維持、組織内での保身、予算、営業成績、法よりも優先される組織内規律。組織であることの強味は多々ありますが、組織であることの弱みもまたあるのです。
 結果として、【組織】とハンターの関係はライバルから緊張状態にある同盟者まで揺れ動き、怪物を含めたその関係は複雑なものになります。共闘したとしても【組織】の都合によって下請けや露払い扱い、酷いときは捨て石として扱われることすらあるでしょう。【組織】の狩りは「ビジネス」なのですから。
 もちろん【組織】も時には頼りになります。しかし、【第二審問】は学校の子供達を少数餌食にするだけの吸血鬼でもなく政治力も持たない怪異に人員を割いてくれるでしょうか?あるいはセクショナリズムに陥り、迅速な行動が出来ないかもしれません。そもそも犠牲を気にしない事だってありえます(「行方不明の子供なんて年間何人いると思っている?警察に任せたまえよ。我々は虚体案件で忙しいんだ」)。組織に属している人々は(当然ですが)組織の都合で動いているのです。
 今、「その怪物」に対処できるのはハンターだけかもしれません。

旧版Hunter:the Reckoningをご存じの方に

 これまでH5について書いてきましたが、H:tR(rev)との関係はどうなのでしょうか?結論からいいますと、関係はありません
 これらは設定的に断絶しており、いくつかの用語が流用されている以外、以前の設定は使われてはいないようです。

おわりに

 現代退魔もの、というシステムは日本でもそれなりに出ていると思いますし、既存システムでもそのセッティングで遊ぶことは出来るでしょう。H5でなくても他のシステムで間に合っている、という意見もあるかもしれません。
 しかし、5版ラインのシンプルなシステムは遊びやすく、シナリオ進行と共に高まっていく緊張感を表す【決死ダイス】、怪物側からハンターへの警戒を表現する【危険度】などのギミックは場をもりあげるのに役立ってくれます。
 そして超常的な能力を持っていても、同時に社会で生活する人間でもある(多かれ少なかれ社会不適合者ですが!)、というハンターの妙味は他ではあまり味わえないテイストかと思います。
 そういったハンターたちや「狩り」に魅力を感じるのなら、試しにプレイしてみる価値はあると思います。このシステムはその期待にきちんと答えてくれるでしょう。
 また、英語版が対象ですが、既にBCDiceにダイスボットも存在しており、手前味噌ですがココフォリア対応のキャラクターシートもあります。ですから、オンラインでのプレイ環境も既に整っているといえます。
 シンプルに言えば、H5は楽しい。だから、皆さんも日本語版が無事発売されたら、オンラインでもオフラインでも是非遊んでみしょう!

脚注

(*1):何故、H:tR(rev)かというと正式には旧版は「Revised版」だからです。
(*2):【信条/Creed】、【エッジ/Edge】の各訳語は早川氏(@hayakawa74)の、H:tR(rev)での訳語を参考にさせていただきました。
(*3):かつて【組織】に属していた、というパターンはあるようです。